「……来ましたね、糸色さん」
「はい、呼ばれましたから」
左之助さんに同伴して貰い、やって来た私に視線を向ける一色景の事を見つめます。が、なぜか顔を逸らされてしまい、どうしたのかと首を傾げる。
「無駄に背が高いわね」
「ノッポじゃねえよ」
いえ、左之助さんの背が高いのは事実ですよ。
「まあ、今はどうでもいいわ。私が貴女を呼んだのは絵の技術を買うためよ。糸色さん、貴女に私へ画術を教える機会を授けましょう」
「お断りします」
「そうで、は?」
「ですから、お断りします。私の絵を誰かに教えるようなものではありませんし、私の糸色景というネームバリューを利用したいのでしょうが、そういう頼みは全て断っているんです」
そう言うと顔を真っ赤に染めて、何かを叫ぼうとする一色景を見つめる。悪意や敵意ではなく、一過性の怒りに任せて手を出すのは得策ではありません。
「絵を描くのは自由です。しかし、現存する物に、いきなり手を加えるのはダメです。でも模倣し、練習するのは良いことです」
「景、褒めてどうする」
「そもそも私は怒っていません。ダメな事をダメだと伝える事を忘れてしまった、この子の両親に代わって教えているだけです」
私の言葉に溜め息を吐く左之助さんに言いたいことはありますけど。そういう反応はとても悲しくなりますから、出来れば止めてほしいです。
「ムカつきますわね」
「怒るのはダメですよ、疲れてしまいます」
しかし、怒る事の苦手な私が言うと説得力に欠けていますし。やっぱり、こういうときこそ左之助さんに助言して貰いたいです。
「とりあえず、景の真似は止めとけ。お前に景の場所は勤まらねえよ」
「ッ、嘗めないで下さい。このような死にかけの人間に出来て私に出来ないわけがありませんわ!それこそ大成してみせましょう!!」
「お前、景が絵だけ描いてると思ってるのか?」
「事実でしょう?」
「違う。景は絵の他に翻訳もするし、通訳もする。子供達に勉強を教えたり、洗濯物や買い物、自分の身体を使って新薬を試しているんだぞ」
そう言われると私はすごく多忙に聞こえますが、私がしているのは簡単な部類ですよ。翻訳は書き写しているものを増やして貰っているだけですし。
絵と違って危うく「物語」を繋げてしまう危険性も少ないてます。繋がりかけていたとき、ドクトル・バタフライが止めてくれなければ危なかったですけど。
そちらは諦めましょう。私に出来ることは夢の先を見せてあげることだけです。