「久しいな。糸色」
「来ましたね。初恋拗らせオギャバブ要求年下ママ好きの粘着陰湿陰険陰圧ストーカー変態妖怪の奈落」
「不名誉な名前を付け足すな」
我が家の結界越しに話し掛けてきた奈落にそう告げると不愉快そうに顔をしかめます。しかし、すべて本当の事ですから、間違っていませんよね。
シャア・アズナブルの偽物みたいな事を言っていた癖に、今さら取り繕うなんて不可能です。そもそも私に変なことを要求するのは止めて下さい。
「(強気を装っていますけど、恐くて吐きそう)」
「儂を妨げる結界も随分と弱まったが、その顔を見るにやはり死期を迎えているな。儂の力で不老不死の妖怪に変えてやろう。この結界を解け」
「私は人のまま死にます。土くれの身体になる気もありませんから甦りませんよ」
「くだらん。儂ならばお主の意思など関係なく呼び覚ます術を知っている」
……遺灰の管理は左之助さんですね。
「儂はお前に触れたい」
声はメロいんですよね。
でも、やっていることはストーカーですよね。それも解釈違いを起こすと怒って殺そうと襲ってくる危険なタイプのストーカーです。
「ドン、親分、ボス、抑えて下さい」
妖気を纏って唸る三びきに止まるように告げ、妖怪としての格はまだ向こうが上だと伝える。ただ、しとりならば妖怪とお友達なので倒せそうです。
「お前の娘の式か」
「お友達です」
「妖怪を友になど出来ぬ」
「それは、あなたの性格の問題です」
本来は奈落でも友人を得る機会はあった。
────けれど。
初恋を拗らせて、あなたは桔梗を討った。
人間の意思は妖怪に屈する事はありません。蒼月君のように太陽を宿す人間も、秋葉君のように心に闇を持ってしまう人間も、色々な人間はいます。
「あなたは諦めたんです」
「なら、お前だけは諦めん」
「諦めて下さい」
そう言うと同時に天井を突き破る音と共に飛来する蛮竜は奈落の身体を貫き、続くように倉の壁や天井を破壊し、奈落に殺到する妖刀霊剣霊鉾の群れに私は苦笑を浮かべながら、あとで直して貰おうと思う。
「ぐっ、何本持っているんだ!?」
「二百七本です」
ハリネズミのようになってしまった奈落の苦悶の声にイヤな気持ちになりながらも視線を晒さず、しっかりと見据えて彼の消える瞬間を確認します。
しっかりと見極めていないと結界に入り込んで来そうですし、ついでに結界を増やしておきましょう。しとりとひとえのためなら、お母さんは頑張れます。
もちろん、無茶しない範疇です。