某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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Dr.エルダーさん視点になります。


似てるけど、変わり者 急

「随分と早い出立ですね」

 

耳につけていた聴診器を外し、診療所の奥の部屋で診察を終えた私は必要な薬品と病状を紙に綴りながら慌ただしくセントルイスを出ていってしまった流浪人さんの友人家族を思う。

 

「特にお子さんを連れての旅をしているようでしたけど。本当に大丈夫でしょうか」

 

「あの体捌き、拳打の姿勢、踏み込みの間合い、どれもが我流の喧嘩殺法なのは事実だが。───しかし、おそらく日本有数の強者なのは間違いないでしょう。何より彼も守るために拳を振るっている様子」

 

「エスピラールさん、戦いたかったんですか?」

 

そう言うと腰の剣に右手を添えていたエスピラールさんの指がピクリと動き、一瞬の間と呼吸を整える音が私の耳に聴こえてくる。

 

「……横浜の一件以来、どうにも日本人の強い者を見ると滾る思いもあります。ですが、今の私の生き甲斐はDr.エルダーをお守りする事です」

 

ゆっくりと右手を自分自身の左胸に添えた彼は優雅に一礼し、穏やかにあの頃よりも少し威圧の抜けた顔で微笑んだ。

 

「アレ、お取り込み中だった?」

 

「変な気遣いをするな。ホーマー」

 

少し照れ臭そうに草臥れた洋服を着た壮年の男性マーカス・ホーマーが診療所の奥の部屋に入ってきた。

 

彼は二年前に右手の甲と左側頭部に酷い怪我を三年も放置していて、危うく死にかけていた危なっかしい人だ。

 

怪我の治療費とリハビリも兼ねて私の仕事を手伝っているエスピラールさんと同じ付き人です。ただ、右手の傷は酷く手当てしても完全な治療は望めず、拳銃を使うのも一日に数回が限度──。

 

「今日は何処へ行っていたのだ」

 

「何、ちょっと懐かしい友人を見掛けてね。オレとの約束を覚えていてくれた事が嬉しくて話しかけそうになってたんだ」

 

「えっ、話さなかったんですか?」

 

「まあね。それにフレンドを追いかけるにしたって、オレの愛銃はアイツに渡しているし。今の銃器屋(ガンショップ)でも扱っていても骨董品扱いなのさ」

 

────骨董品。

 

その言葉にエスピラールさんの眉間に皺が寄り、左腰の剣を握り締める強さが増す。自分自身の剣士の誇りに似たものを宿す自虐する友人に腹を立てているのですね。

 

しかし、直ぐに彼の怒りは霧散する。

 

「Dr.エルダー。そろそろ頃合いかと」

 

「えぇ、そうですね。マーカスさん、二年間、よく私達と一緒に働いてくれました。これは私とエスピラールさんからのお礼です」

 

そう言って私は机の引き出しに閉まっていた木製のガンケースを取り出して、そのガンケースを彼に向かって差し出す。マーカスさんは戸惑いと喜びに震えながらガンケースを受け取り、ゆっくりとガンケースを開ける。

 

「コルトSAA…なんで?!」

 

「ガンショップの前を通るとき、必ず視線で追っていたのでな。お前の愛銃はおそらくソレだろうと私もDr.エルダーも考えていたのだ」

 

「大事なお友達なのでしょう?まだ間に合います、追い掛けてあげなさい」

 

「…Thank You。エルダーさん、エスピラール!」

 

マーカスさんは涙を脱ぐって診療所の外に飛び出し、ずっと心配していた友人を駆け出ていく。無事に出会えると良いですね、フレンド────。

 

 

 

 

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