景の身体を抱き上げる。
また、軽くなっている。食事は以前と変わらない量を食べているし、吐いているという訳でもない。オッサンと恵の作る新薬は効いた物を改良し、また試して、身体を治そうと頑張っている。
あと二年、あと一年かも知れない。
すうすうとか細い寝息の漏れる景を胡座を掻いたまま見下ろし、いつ止まるのかと不安になる小さな心臓の鼓動にオレは焦りが募っていく。
オッサンは「一度に強力な薬を使うと逆に身体を酷使してしまう。少しずつ濃度を高めて薬に慣れさせているが、タイムリミットと特効薬の完成は五分五分だ」と、景にも内緒でオレは教えられた。
しとりとひとえに見えないところで心臓を抑えて蹲る景に駆け寄りたくても、子供に見せたくないと言う景の言葉のせいで話し掛けて助けることも儘ならない。
血を吐いて、涙を流す景。
地下室の座敷牢に閉じ込めてしまえば、もう苦しまなくて良いのかも知れない。そう考えていたが、太陽の光を浴びて、少しでも健康になろうと運動する景を閉じ込めるなんてオレには出来ねえ。
「…んッ、ん…けほっ、けほっ……」
小さく咳を繰り返す景の身体を背中を擦り、また布団に寝かせてやる。薬の影響か飲んだ後はいつも眠そうな顔をし、夜に飲んだときは、こうして抱き締めても起きることは少なくなってきた、
オレの肩口に顔を埋め、背中を掴むように抱き付く景の小さな身体を潰さないように抱き締め、ゆっくりとオレも寝転ぶ。
か弱い命。
こんなに小さな身体に地獄のなんちゃらや神様、変な銭や箱、化け物が封じ込められている。人という牢屋に景は体よく使われている。
「死なないでくれよ」
ジャラジャラと縛る音が聴こえる。
死んでもオレの傍に居ろと景の事を縛ろうとする意識が漏れる。奈落の野郎が邪心に取り憑いてから、こんなもんが出るようになった。
「魂を縛れば一緒に?」
そんなことを呟きながら景の首に触れる鎖が伸びる寸前に手を放し、身体の中に引っ込んだ後、眠っている景の事を見つめて、静かに目を閉じる。
お前の事を愛している。
離したくない、死んでほしくない。
「(お前の事を閉じ込めたい)」
自分の暗い感情に嫌気が差す。
だが、それでも嫌だ。
奈落の野郎は「日暮かごめ」と「桔梗」の生まれ変わりの話をしてきた。アイツらのようになるのかと考え、オレを忘れた景なんて認めたくなかった。
「お前はオレの傍に居てくれ」
そんな思いが鎖に変わって景の身体を縛り付け、巻き付いていく。
離れるな。
離れないでくれ。