糸色景は悪人である。
そう書き綴った瓦版をばら蒔いていた男の人を掴まえたという話を聞き、調べるとお父様の事を利用し、政界に取り入ろうと画策していた人です。
私の名前を書いた理由は「女の癖に成功しているのがムカついたから」だそうです。日清戦争間近のため、ピリピリとしているのは分かります。
しかし、思い込みは危険です。
自分の価値を正当化するため、自分自身を貶めてしまう事実に気付けなくなる可能性も捨てきれず、かといって自己肯定感を失えば人はおかしくなる。
矛盾に抗い、矛盾に従う。
「なんの真似だ?」
「帰れ」
「左之助さん、お仕事で来てるんですよ」
「チッ」
私の片腕をつかんだまま舌打ちをする左之助さんにビックリしながらも苦笑を浮かべ、斎藤一を家の中に招き、なにがあったのかを聞きます。
悪いことでは無いと信じたい。
しかし、悪いことの予感を感じます。
「で、何の用なんだ?」
「糸色、秘密裏に日本征服を頼んでいないな?」
「頼んでいませんよ」
というより、統治後が大変そうです。
統治後に、みんなが言うとおりに動いてくれるのなら現代の技術を余すところ無く、すべてを使いきって日本の防衛に向かうことは出来ますけど。
絶対に戦争しそうなんですよね。
好きだから邪魔されたくないというより反発されるのが怖くて日本征服なんて無理です。あと私の性格自体が争い事に向いていないのもあります。
「兎に角、頼んでいないし目論んでいないな」
「は、はい」
「でも景なら出来そうだよな」
「俺もそう思っている」
「あ、あはは」
そんなに怪しいですか?と聞きたいような聞きたくないような気持ちになりながら、左之助さんの方を見遣ると「日本征服か」と何故か乗り気でした。
......まあ、深くはやめておきましょう。
考えすぎも良くないですし。
危ないからと遠ざけて、聞かないのもこわいので斎藤一に概要だけを聞いておきつつ、どうやって仕返しされるのかも考えないとです。
「下剋上を考えていないなら問題ない」
「出来ても統治が大変ですよね」
「「............」」
「...えと、なにか?」
「いや、出来ないと言っていたのに統治の話が出てきて驚いているだけだ」
「『頼んでいません』とは言いましたけど、『出来ない』とは言っていませんよ?」
日本征服したら怪人や組織に狙われてしまいますし、そうなると更に大変そうです。私はどこにでもいる、普通の人妻なんです。
そういうことはしたくありません。