ススハムとの世間話を終えて、私は白紙の本を手にとって読んでいる。イメージを整えるために最適化したとも言える、いわゆるルーティーンです。
ススハムの今後を見るなんて事は不可能ですが、すでに起こった出来事を見ることは出来ます。......何気なく言っているけれど。
普通に考えると寿命を削ってますね。
「(『前世の記憶の保持』はこの世界にも適応し、過去の出来事を頭の中に流し込んできます。ドクトルによる封印施術を受けているおかげで、まだ一応は暴走せず、記憶の保持は安定しています)」
長谷川写真館の火災と襲撃は起こっているようですが、此方は最悪の事態になって……長谷川さんを狙ったのではなくウイルク達を探していた?
「(かなり捻れていますね、これ)」
「景、顔色が悪いぞ?」
「え?あ、そうでしょうか?」
本を閉じて、左之助さんを見上げる。
「......なぜ、着物を脱いで?」
「あの墨の妖怪にやられた」
「それは、大変でしたね。お風呂場で墨落としをお手伝いします」
袖の中の襷を使って袖を縛り、着物の裾を帯に差し込み、濡れないように注意しながら浴室に向かい、素早くショドウフォンで「温」「水」と文字を描き、浴槽にお湯を溜めて、桶に掬ったお湯を左之助さんに掛ける。
「ひとえの周りは変なのが多いな」
「人徳でしょうか?」
洗髪料を頭に掛けて、墨を洗い落とし、頭皮を揉み込んでいると「なんで頭を揉むんだ?」と聞かれたので「禿げ防止です」とだけ伝えました。
フサフサのままお爺ちゃんになってください。
少なくとも私も出来る限りお婆ちゃんになれるように頑張りますから、貴方も頑張って生きて下さいね。もしものときは後妻を作って良いです。
悲しいけれど。子供達のためです。
「前も洗うか?」
「ご自分でどうぞ」
「つれねえなあ」
お湯を桶で掬い、頭の泡を洗い流し、お湯に浸していた手拭いに石鹸を擦り付け、泡立てて、ゆっくりと背中を洗っていく。
「景も脱げば良いのによ」
「脱ぎません。あと着物に水を掛けようと考えるのは止めてくださいね?」
しとりとひとえの選んでくれた生地を使って、繕った大切な着物なんです。
「前は洗えましたか?」
「見るか?」
「洗ってください」
ペチペチと泡まみれの背中を叩きつつ、私の教えた鍛練を未だに続けてくれているおかげで、とても分厚く素敵な広背筋に手を添える。
「…すみません」
「なんで謝るんだよ?」
「その、引っ掻き傷が……」
「ああ、必死に抱き付いてたからなあ」
「っ、そ、そうですけどっ」
恥ずかしい…!