騒々しい一日も終わりました。
「左之助さん、大変です」
「どうした?」
「蜻蛉切がありません」
「とん、なんだ?」
「蜻蛉切です」
お父様に贈るために磨いていた途中のムラマサ「蜻蛉切」が無くなっていました。おそらくですが、ぬらりひょんの誰かが持ち去っています。
私のモヂカラで「不朽」の文字を加えていた分、相当強力な能力か妖術でなければ破壊することの出来ない特殊なものになってしまっているんです。
悪い妖怪です。
「こんなことするなんて非道です」
「他に盗まれたのはあるのか?」
「左之助さんのお酒と、私の着物ですね。……いえ、着物は触っただけで無くなっているわけではないんですけれど」
「次に来たときに言うしかねえな」
そう、なってしまいますね。
私の着物を盗もうとした理由はおそらく四次元袖を欲しがってのことなんでしょうが、私以外が手を差し込んでもあるのは私の細い腕だけですね。
左之助さん、楽しそうに笑っていますけど。
「洋酒ですよ、盗まれたの」
「アイツら、ブッ殺してやる」
左之助さんは阿部十郎の送ってくれるリンゴの洋酒を気に入っているので、ものすごく怒っていますね。しとりとひとえもリンゴの果汁ジュースが大好きです。
私もリンゴ餅は大好きです。
甘い果肉も酸っぱい果肉も好きですね。
「落ち着きましたか?」
「......おう」
よしよしと左之助さんの頭を優しく抱き締めて平常心を思い出させてあげつつ、スーハースーハーと私の胸に顔を押し付けて深呼吸する左之助さんに首を傾げつつも、今は怒っているより良いと思います
「んむぁ……おあよぉ」
「あらあら、今日は早起きですね。ひとえ」
「だっこぉ......」
「フフ、いいですよぉ」
「阿呆が。ぎっくり腰になるぞ、ひとえ。父ちゃんが抱っこしてやる」
「ぁいぃ」
ひとえを抱き上げた左之助さんに「ありがとうございます」とお礼を言いつつ、私は物色された部屋に「清」と「浄」のモヂカラを与えて、一応、当てられて妖怪が現れないように、三人のぬらりひょんの妖気をしっかりと消しておきます。
「景、しとりも起きたぞ」
「いつもの朝稽古ですね。私も朝御飯の用意をしますので左之助さんは二人の事を見ていてもらえますか?」
「お前を見てるだけじゃダメなのか?」
「口説き文句、ですか?」
いつも思いますけど。
そうやって直ぐに甘言を言うのはやめてほしいです。恥ずかしさと嬉しさで、どうしようもなく幸せな気持ちになってしまいます。
左之助さんは、ずるいです。