「左之助さん、此方は?」
すうっと差し出すシャツの胸元に付いた口紅の跡に左之助さんは困惑しています。私の使う口紅は色合いは薄く、こう派手な赤ではありません。
ぬらりひょんの一件の後、直ぐにこんなことをするなんてどういうつもりですか?と怪しむよりも悲しさと惨めさに泣きそうになります。
「後妻を迎えるのは、構いません。でも、浮気するなんて酷いです…」
「待て待て待て!?よく見ろ、どう見てもイタズラだろう!?オレがお前以外に首に抱きつかれて口吸いを許すと本気で思ってるのか!?」
「それは、そうですけど」
「落ち着いて見てくれ。景の唇よりで小さいし、どう考えても子供の仕業だ」
「しとりとひとえを疑うんですか?」
「いや、悪戯好きでこの家に入ってきてもバレないヤツはいるだろ」
いったい、だれが?と困惑していると、左之助さんは寝室と廊下を隔てる戸を開け、左之助さんは部屋を覗いていた心弥君を掴み上げました。
ひとえは何故かお盆を持って歩いていました。よく見ると茶葉とお湯、急須があるので話し合いを止めに来ようとしていたんですね。
すごく嬉しく思います。
「ひーちゃん、掴まった、助けて」
「やっ!とーさまとかーさまを騙したからしんちゃんも反省して!」
「おっちゃん、ごめんね」
「弥彦に許して貰えると思うか?」
「おばちゃん」
「心弥君、私は悲しいです。好きな人の浮気を疑ってしまった自分がとても恥ずかしくて情けないです。だから、心弥君も反省してください」
浮気を疑ってしまったこと。嘘を吐かれて悲しかったことをしっかりと明神君に怒って貰ってきてください。
「ひーが連れていくね!」
「ひーちゃん、裏切り者ぉ」
「かーさまを悲しませたからダメ!」
プンプンと怒るひとえに連れられ、出ていく。
「さて、と」
思わず、ビクリと肩が跳ねる。
疑ってしまったのは事実です。
「わ、私に可能な事なら出来る限りの……」
「何でも、だろ?」
「ひうっ」
にっこりと笑ってきた左之助さんは我が意を得たりと言わんばかりに私の肩に触れ、首筋から頬を撫でてきます。
お、終わった。
終わりました。
うぅ、きっと辱しめを受けるんです…。
「しとりとひとえが寝たら座敷牢に行こうな」
「は、はい」
そう言って私を見つめる左之助さんの目は獲物を捕まえた獰猛な獣のように輝き、犬歯を首筋に突き立ててきました。
うぅ、せめて人としての尊厳だけは失いたくありません。どうか手心を加えていただけたら、でも、疑ってしまったのは私ですし……。