三つの小樽をジャグリングのように手の中で自由に投げるリトルサーカスの団長ロバート・ロドリゲスの巧みな動きに左之助さんとしとりは感心の声を上げ、しとりはパチパチと両手を叩いている。
「ジャグリング。お手玉や投げ輪の技術も極めりゃああいうことも出来るのか」
「左之助さんもしてみたいんですか?」
「オレは和尚に貰った極意と蛮竜で十分だ」
私の質問に右拳を見つめ、幌馬車の中で鼓動する蛮竜の事を呟く左之助さん。昔はただひた向きに強さを求めるだけだったけど、今の左之助さんは自分と相手に強さに意味を持っている。
それは、喧嘩の美学とも云える。
「アニキ、ネエサン、飲み物売ってたぜ!」
「ネエサンはやめてね?でも、ありがとう」
「林檎の果汁を搾った飲み物か。甘くて良いな」
「むぅ!」
「フフ、しとりも飲みたいのねぇ」
しとりも飲みたいと訴えてくるけど。まだ、貴女は赤ちゃんだから、ちょっとだけよ?ゆっくりとマグカップに注がれていた林檎の搾り汁、アップル・ジュースをしとりに飲ませてあげる。
ちょっとずつ口に含んだしとりは、パチパチと目を閉じたり開いたりしながら可愛い頬っぺたを触り、その美味しさを精一杯表現してくれる。
とっても可愛くて素敵よ、しとり♪︎
「アイツらも起きたな。景、ちょっと話してくるから拐われたり捕まったりせずに待ってろよ」
「さ、さすがに心配しすぎで……はないです」
彼の言葉を否定しようとしたものの、わりと前科が有りすぎて否定できずに少し項垂れる。しとりの不思議そうに私を見つめる純粋な目に申し訳無さを感じつつ、ウィリアム・ヘンリーに視線を向ける。
「あれ、ネエサンも僕の話を聞きたい感じ?」
「……まあ、ドクトルの話だけでは貴方の事を理解しているとは思えませんし。なによりビリー・ザ・キッドではない貴方が何者なのかも気になります」
「……OK。僕はウィリアム・ヘンリー、マッカーティでもジュニアでもない。ビリー・ザ・キッドとは無関係のアウトローに憧れる青年なのは本当だよ。───ただ、この顔も身体も僕の願った『特典』のせいなんだ」
「特典による肉体の変容ですか?」
その答えは予想外だけど。
彼の異常な打たれ強さと回復力の理由と考えれば納得できる内容ではある。が、本当の事を言っているという確証は得られていない。
「この世界に生まれたときは嬉しかったよ。憧れの西部劇、ガンマン、銃もあるんだ。でもね、僕の願い事は失敗だった」
「何を願ったんですか」
「『その時代の最強になりたい』って、まだまだ夢見る子供で何にも考えずに神様に願った僕の身体は成長と共に両親の面影を無くし、身体の強さもギリギリ人間の範疇に収まっている程度。───僕はウィリアム・ヘンリー、愚かな願いで名前以外を失ったんだ」
そう言って笑う彼は寂しげで、いつもヘラヘラと笑っているのは自分を鼓舞しているのだと漸く理解することが出来た。だからドクトル・バタフライも彼を心配して、私と引き合わせたんですね。
境遇は違うけど、彼も世界に絶望していた。
【概要用語解説】
本作の単語や転生者に関する事を解説します。
【ウィリアム・ヘンリー】
本名「ウィリアム・ヘンリー」。
年齢は合っていれば20歳。身長163cm。
完全なオリジナルとして関連する物語は存在せず、普通の幸せな一家の息子として生誕した転生者。幼少の頃は両親に似ていたが、誕生日を迎える毎に「ビリー・ザ・キッド」の容姿や肉体の性能は似ていき、現在は金髪碧眼の美青年の姿に変わっている。
常にヘラヘラと笑っておどけ、自分を鼓舞しているつもりだが、不安やストレス、寂しさは完全に消えることはなく、唯一自分を「ウィリアム・ヘンリー」として扱ってくれた「ドクトル・バタフライ」に感謝しており、相楽夫婦の優しさと厳しさに両親の温もりを少しだけ感じている。
転生する際に選んだ「特典」は「その時代の最強になりたい」と「幸せになりたい」。
一つ目の特典「その時代の最強になりたい」によって肉体は最強の存在に変わり始め、「ビリー・ザ・キッド」という人間に限り無く近い存在に変容・変貌してしまった。肉体レベルは最高水準に達しており、左之助の本気の「二重の極み」にも耐え得る可能性さえある。
二つ目の特典「幸せになりたい」は彼個人が幸せになるため、他人の幸運や幸せを少しずつ借りている。彼だけは幸せになることは出来ても、彼が誰かを幸せにすることは出来ない。