「ん!ばっとーが!」
タンと地面を蹴って縦回転の抜刀牙を放つドンの姿に湯呑みを落としそうになってしまい、コトリと湯呑みを机に置き、眼鏡を外す。
「目の錯覚でしょうか」
自分の『特典』を疑う事はありませんが、流石に予想外の出来事すぎて困惑しています。クズリはイタチですが、オオカミの技を使えるのでしょうか。
「ばっとぉぉーーがっ!!」
使えていますね。
あと、しとりも燃えています。
おそらく「妖逆門」のときに使えるようになった抜刀牙を使いこなせるように練習しているのでしょうが、ドンは平然と技を繰り出し、巻き藁に噛み付き、裂く。
妖怪化のおかげか。
ドンは身体の伸縮を自在に扱えるようになりましたし。親分はネコバスになりますし、ボスは人間に変化したりと色々な事が出来る。
「ドンはすごいですね、親分」
私のお膝の上に寝転んでいるスネコスリの親分を優しく撫でてあげる度、生気を失っているように感じつつも優しく撫でてあげる。
「おやぶん、どいて?ねえ、むう!」
「フフ、おいで。ひとえ」
親分は動こうとせず、フスフスと鼻を鳴らしてひとえのお願いを無視しています。わざとしているのは分かりますので、ひとえを抱き寄せて、よしよしと優しく頭を撫でてあげます。
「ひとえは良い子です、小さなスネコスリの親分を押し退けようと思えば出来たのに、よく我慢してお願い出来ましたね」
「んぇへへ♪︎」
「よしよし、良い子ですね」
「ぁぃ、ぁい、ひーはいいこ♪︎」
ブンブンと見えないし、生えてない筈の尻尾と耳があるような錯覚を起こすほどひとえは嬉しそうな笑顔を私に向け、可愛くて素敵な笑顔の花が咲き誇る。
「んんんん!!!わたしもよしよしして!」
「わっ、ああぁぁ……あ゛っ」
しとりを受け止めようとした瞬間、ひとえを巻き込み、後ろに倒れ、グキッと腰が鈍く酷い音を立ててしまい、どさりと居間のほうに倒れる。
「(ぎ、ぎっくりごし?いえ、そんなわけが)」
いえ、いえいえ、まだ三十代になっていないのにぎっくり腰になるなんてあり得ません。そう、これは腰を痛めてしまっただけです。
他の場所はいたくありません。
「しとり、おりてもらえますか?」
「? 声が震えてるよ?」
「お母さんの緊急事態です」
ちょっとだけ、身体に深刻すぎるダメージを負ってしまった可能性があります。それこそ立ち上がったりすることが出来ないほどに腰が痛いです。
兎に角、悩ましいですけど。
左之助さんに恵さんを呼んでもらいましょう。