あの後。
鏡の外へと出ると、ものすごく怒った左之助さんが目の前に佇んでいた上、鏡爺も全力で逃げてしまうという事態に陥り、蕎麦屋の二階でお仕置きを受けるという、ぎっくり腰には辛い一日でした。
そして、ぎっくり腰は継続中です。
もう限界だったのでドクトル・バタフライに治療して貰い、無事に治ったには治ったんですけど。一週間も我慢していた左之助さんに捕まりました。
私は、ひ弱なんです。
ちょっとだけ優しくして下さい。
「うぅ、まだお腹が…」
「三人目に期待だな」
「(……そのときは、私と子供のどちらかではなく子供を遺して死んでしまう気がします。いえ、二度も死にかけていますし、そうですよね)」
私のお腹を撫でて触る左之助さんの手の甲をつねって「意地悪する左之助さんは嫌いですっ」と、そっぽを向いて怒ってみます……いえ、これは怒っているというよりも拗ねているのほうが正しいですね。
「ほお?昨日はあんなに好き好き言ってた癖に言うじゃねえか。今日も言わさせてやろう?」
「そ、それはご勘弁を…」
襦袢もはだけた素肌の太ももを這う左之助さんの手に顔を赤らめつつ、そう言って私は布団を抜け出そうとするも手首を掴まれ、また布団に戻ります。
「景、オレは意地悪したいわけじゃないんだ。オレはお前に安心して、過ごしてもらえるようにオレなりに出来ることをしているだけなんだ」
「だ、だから、ひぅ…」
うなじに吐息が当たり、身体が強張る。
歯がうなじに当たり、噛み付かれる痛みと恥ずかしさに身体を縮めるように手足を折り畳み、ミシリと畳の軋む音が聴こえてきた。
不安と恐れ、幸せに涙が溢れる。
「知ってるか。外国だと接吻する場所に意味があるらしいぜ」
そう言いながら私の左手を握り、指を絡めて、此方を愛しそうに見詰める左之助さんの目を見上げ、尖った犬歯と八重歯が見える。
「うなじに接吻するのは、大切にしたいや守りたいって意味で。首筋や喉はソイツを渡したくない、離したくない、支配したい……」
顎先に右手が触れ、いつの間にか寝転んでいた私の身体は胡座を掻く左之助さんの足の間に収まり、細く強く握れば簡単に折れる首に左之助さんの顔が近づく。
「最後は相手を自分のモノにしたい、だ」
「っ、あ、やぁ…!」
ねっとりと舌を這わせて、彼の唇が首筋に噛み付き、肌を穿つ牙の痛みに涙を流しなが、、必死に左之助さんの腕に掴まって耐える。
痛くて怖いはずなのに、幸せを感じています。
恥ずかしいのに、嬉しくて幸せにです。