こっそりと剣道道場を覗き、しとりを見ると男の子も女の子も集まって楽しく会話しているように見えますが、剣路君だけ不満そうです。
自分の許嫁に言い寄っている人を見るのは辛いのでしょうが、もうちょっと積極的に行かなければしとりは気付きそうにありませんよ。
「景さん、なにしてるの?」
「っ、か、薫さんですか」
ビクリと名前を呼ばれたことに驚きながら、後ろを振り向くと怪訝そうな顔で私を見下ろす薫さんが立っていて、手には竹刀が握られている。
「こんなところでコソコソして、何かあったの?」
「実は、しとりのことで」
「しとりちゃん?」
「えと、更に可愛く綺麗になったしとりに好意を向ける男の子が増えたことで左之助さんが危うい状態になってしまっているんです」
「えぇ?またなの?」
「はい、またなんです」
剣路君だけでもギリギリだったのに、さらにしとりを好きになる男の子が増えたことで左之助さんの父性は暴走し、過保護になりすぎているんです。
私は剣路君に告白してもらい、正式にお付き合いして夫婦になってほしいんですけど。しとりは気付いておらず、剣路君は奥手です。
このままでは、不安になります。
「ん!母様、どうしたの?」
「しとりちゃん、貴女は剣路が好き?」
「? けんちゃんは好きだよ?」
「ッ…!」
ばっと顔を赤くした剣路君が此方を向く。
何かを言いたそうにしているけど、しとりと薫さんがいるので強気に出るのは無理なので、恨めしそうに私の事を見詰めて、すぐに反省しましたね。
「わたしは、けんちゃんと夫婦になるよ?」
「あら、あらあらあら」
「……(ウソ、ではないですね。むしろ、そうなるた信じている目ですね)」
しとりは無頓着だと思っていましたけど。思ったよりも、いえ、しとりは乙女チックみたいです。フフ、なんだか可愛くて可愛くて仕方ないです。
「ん!だからね、けんちゃん」
「はい!」
「わたしに勝てるようになってね!」
くるりと振り返ったしとりは剣路君を指差して、にっこりと笑顔を向けた。太陽が花のように咲いたように見えるほど、とても綺麗な笑顔です。
「……おれが、勝つ!」
「ん、期待しててあげる」
「…変になった気もするけど、そういう恋愛もあるってことなのかしらね」
「私、左之助さん以外とお付き合いした経験がないので流石に分からないですよ」
そんなことを話しながら、しとりと剣路君の二人を見ていると恋慕を向ける男の子たちが剣路君に勝とうと更に練習に励みはじめています。
やっぱり、しとりは波乱万丈ですね。