ひとえも習い事を始めたいと言うのかと思いましたけど。この子は見て覚えるより「慣らし」で覚えることが適していますね。
「できた!」
「フフ、もう算術は完璧ですね」
「むふぅーっ、ほめて!」
「偉いですねぇ♪︎」
自信満々に笑顔を作ってドヤる可愛いひとえの頭を優しく撫でてあげ、ゆっくりと答案用紙を見る。この年齢でもう中学生の問題を解けるのは驚きです。
しかし、算盤を転がすのはやめましょう。
以外と作るのは大変ですし、均一に整えるのも大変でした。とくに漆は皮膚が爛れる危険性もあり、慎重になっていました。
算盤作りは気を付けましょう。
「かーさま、ねーさま結婚するの?」
「お母さんとしては気心の知れた人と結婚してほしいですねぇ……(本当の事を言えば孫を抱っこしてみたかったんですが、その願いは叶いそうにありません)」
そんなことを言ったら、また左之助さんが怒りそうなので言いませんけど。左之助さん、なぜか私の心音を聞くことが増えてきたんですよね。
私の事を心配してくれるのは分かるんですが、起きたときに着物がはだけていたり、胸に顔を押し付けて眠っている左之助さんを見るのはビックリします。
「むう、こっち見て!」
「あぷっ、なんれふか?」
「かーさま、悩みすぎ!」
「……そう、でしょうか?」
いきなり私の顔を両手で挟んできたひとえを見ると、そう言われてしまった。悩みすぎ。確かに、ずっと悩んでばかりでしたけど。
そんなに悩んでいるように見えるのでしょうか?と首を傾げ、むにゅんむにゅんと頬っぺたを撫でてくるひとえを撫でてあげる。
「もう、お母さんを撫ですぎですよ?良い子のひとえも撫でてあげます」
「んぇへへ……♪︎」
「フフ、かわいいですね」
よしよしと優しく丁寧に死ぬときまでひとえの事を覚えておけるように彼女の顔や頭を撫でて、しっかりと私の記憶に刻み付ける。
「どうするの?」
「え?」
「かーさまも我が儘言っていいんだよ?」
「……ひとえは良い子ですね。でも、お母さんの我が儘は貴女としとりが大きく元気に育って、大好きな人と幸せになってくれることですから」
私の幸せは叶っていますし。
「むう、かーさまは我慢しすぎ」
「お母さんは弱いけど、強いんです。あ、ひとえに叩かれたら普通に骨が折れて死んじゃいますから、叩こうとしないでくださいね?」
「あい!」
元気に返事するひとえ。
この子は本当に良い子です。
裏も表も照らすしとりが太陽なら、この子は悪も善もまとめて受け止める大空のようです。