「青龍の方角。齢十一にして剣の道を志し、達人、ごろつき、剣客、並み居る相手を打倒し、しかして不殺極まる活人の剣。神谷活心流師範、明神弥彦!」
「薫のヤツだな。変な事吹き込みやがって」
そう不満げに呟き、一礼して闘技場に踏み入る明神君の視線は大文字煎子に向いたまま動かず、相手の出方を警戒しています。
「道場剣術と侮るヤツは居らんでござるな」
「白刃取り千人でしたっけ?」
「左様。弥彦はまだまだ強くなるでござるよ」
私はその時はアメリカに居ましたので内容は知りませんが、千人次々と迫り来る剣士を素手のまま制し、神谷活心流の極意を体現していたそうです。
「白虎の方角。本日公開!日本の誇る芸能『茶道』を武道と組み合わせ、和の心を抱きて座して戦う流儀。格闘茶道家元、大文字煎子!」
「宜しくお願い致します。明神様」
優美さを損なわない穏やかな一礼を行い、畳を踏み締めて、ゆっくりと闘技場の出入り口に正座した彼女の胸元には茶杓があり、袖の内側にも幾つか茶器を隠し持っていることは明白です。
「いざ、尋常に────始めェ!!」
操さんの開戦の合図と同時に袖の内に隠していた茶柄を振るい伸ばし、横に振るう所作は余分な水気を切る姿を彷彿とさせる。
しかし、明神君も臆する事なく柄杓の細い柄を木刀で受け、木刀の鎬を押し付けるように、そのまま踏み込み、出入り口付近に正座したまま動かず、その場に居座り構える大文字煎子に近付いていく。
───刹那、紫色の帛紗が舞う。
「がッ!?」
明神君の身体は傾き、収縮していた柄杓で顔を殴られ、のけ反り、たたらを踏む。顔を抑えて、鼻血を拭う明神君も受けるまで見えていなかった。
「な、なに今の!?」
闘技場に一番近い場所にいた操さんには見えていない。いえ、私やしとり、ひとえの様な「目」の持ち主で無いと見えていなかったのかも知れませんね。
明神君の軸足に袱紗を巻き付け、引いて体勢を崩し、二本目の柄杓を抜いて顔を打った。選手の何人かは推測と予測は出来ているでしょうが……。
アレは見えていても、避けるのは難しい。
「景、見えたか?」
「ん!わたしは見えたよ」
「ひーも見えた!」
その屈託の無い言葉にどよめきが起こる。
野次を飛ばす人はいません。左之助さんと四乃森蒼紫、凍座白也の三人がものすごく怖い顔で睨み付けて、野次その物を封殺しています。
「ってぇ…俺には見えなかったけど。何となく受けたときの事は覚えてるぜ」
そう言うと明神君は正眼に木刀を構える。
突けば、大文字煎子の顔に当たる。