随分と久しぶりに見る般若面に懐かしさを覚える私達と違って、私の胸に顔を押しつけて怖がるしとりの背中をポンポンと優しく叩いて撫でてあげる。
「お久し振りです。糸色殿」
「はい。お久し振りです、般若さん」
「オウ。オレにも挨拶しろよ」
「相楽、お主はまたデカくなったな」
どういう立場で言っているのだろうか?と思いつつ、左之助さんと般若のやり取りを眺める。五年ぶりに会えて左之助さんも嬉しそう。
のんびりと文明開化の影響で電灯が少しずつ増えてきた東京の街並みをしとりと一緒に眺める。今更ながら自転車と人力車の席をくっ付けた、所謂チャリタクの座り心地の良さに驚く。
「馬の方が速くねえか?」
「この様な人の多い公道で馬は使えん」
「うまさん?」
「般若さんはお馬さんじゃないわよぉ?」
しとりのちょっと般若に向けていた不安と怖いという気持ちが薄まり、逆に般若の事を馬だと思い込み始めている。……怖いと思うよりマシかもしれないわね。
いや、でも流石に般若に失礼だわ。
「蒼紫のヤツは元気なのか?」
「御頭は重要な任務に当たっている。……まあ、余り大きな声では言えんが、御頭に大量の縁談話が浮上していてな。操が躍起になって阻止しているのだ」
「あの嬢ちゃんも大変だな」
巻町さん、まだ捕まえきれてないのか。
そろそろ結婚適齢期に入るんじゃないかしら?なんて考えながら膝の上でアクビをするしとりの靴を脱がせて、左之助さんの肩をトントンと叩く。
左之助さんもしとりが眠いことを察してくれて、しとりのために対面側に座り直してくれる。
そんな本当に良いお父さんな左之助さんに「ありがとう」と伝え、手渡してくれた背広を風邪を引かないように、しとりに掛けてあげる。
「夫婦円満なのは善い事だ。───ところで、糸色殿に頼みたいことがあるのだが良いだろうか?」
「『うしおととら』の続きですよね。それならアタッシュケースの中に纏めていますから、発行と同時に出来上がった物をお渡しします」
「有り難き幸せ…!!!」
般若の大声にパチン!と両目を開けるしとりの背中を優しくポンポンと叩きながら、静かに子守唄「君だけを守りたい」を歌ってあげると瞼を閉じて眠り始める。
「般若ァ?」
「……し、失礼した。申し訳ない」
昔は敵対していたのに仲良くしている左之助さんと般若の姿にクスクスと笑いながら、私のスカートの裾を掴んで眠るしとりの頭を撫でて、前髪を整える。
私の癖毛に似なくて良かったけど、ツンツンしてるのは左之助さん譲りだと思う。そろそろ神谷道場に到着する頃かな?と外を見た瞬間、赤い髪を靡かせて家屋の屋根を駆ける人を見付ける。
「……左之助さん、あれ見て下さい」
「ん?……なんだよ、元気そうじゃねえか」
「そうですねえ」
五年前、度重なる激闘で刀を振るえなくなると宣告されていた緋村剣心が屋根の上で長ドスを振り回して暴れる男の事を倭杖を使って倒す光景に左之助さんは笑顔になる。