「いざ、尋常に───始めェ!」
操さんは仕合開始の掛け声を発すると同時に格子の隙間を潜り、外に出ると青龍の門の近くに座り、仕合の行く末を完全に四乃森蒼紫に委ねている。
元々操さんの役目はレフェリーではなく、この「天挑五輪大武會」の見届け役を請け負ってもらっている。最も公平且つ冷静な人間というわけです。
「ハッハァーッ!!先手必勝だ、ゴルァ!!」
彼女の合図を聞き終えると同時に真っ直ぐ四乃森蒼紫に向かって走り出す戌亥番神は地面を踏み締め、跳び上がると両足を揃えた飛び蹴りを放つ。
術式無敵流「風神槌」。
見え透いた技と侮らず、四乃森蒼紫は後ろに退かず、真横に飛び退き、格子に直撃した刹那、ゴギャアッ!と鈍く音を立てて格子はひしゃげ、闘技場を囲う格子の破片が四方に飛び散り───。
格子の縁を掴んだ戌亥番神は、そのまま壁伝いに走り出し、両腕を揃えた追撃───術式無敵流「雷神車」を放ち、大太刀で攻撃を受けた四乃森蒼紫の腕から鞘が粉々に弾ける。
「…交差を利用した破壊か」
「ハッハァッ!!正解だぜ!!」
四乃森蒼紫は空を舞う鐺の小太刀を掴み、小太刀二刀流を使わざるを得ない状況に追い込まれ、観察する時間を潰されてしまった。
「無敵手甲を使わず、よく鉄拵えの鞘を壊したのか?いや、両腕を外側に引いて砕いたのか?」
左之助さんもそう悩み、観察する。
「来い」
「言われるまでもねえ!」
小太刀の間合いを潰そうに詰め、左腕を顎先に添え、右腕を軽く胸元に下げたまま、素早く右の裏拳を連打し、時折軌道を変えて拳槌をボディーに繰り出し。四乃森蒼紫が後ろに退いて、間合いを拡げた瞬間、爪先から生じる渾身の左直突きを撃つ。
最初の派手さとは裏腹に精密機械めいた動き。左之助さんと戦った時よりも時間は経過し、慢心を捨て去った今の戌亥番神は極めて経験豊富な武術家です。
しかし、四乃森蒼紫も拳法家という一面もあります。戌亥番神の攻撃パターンを予測し、紙一重に避けていたその時、間合いを更に詰めた戌亥番神の足が、彼の右足に絡み、四乃森蒼紫は不自然に姿勢を崩す。
「(今の動きは足狩りでしょうか。西郷四郎の蛸足と違い、踝やアキレス腱に衝撃を与えての『透かし』にも見えていましたけど)」
「シャラアオッ!!剛斧爆ッ!!」
「ゴッ…?!」
喉を狙った二の腕による打撃を受け、血を吐く四乃森蒼紫は背中を格子にぶつけ、血を吐いて首を傾け、ゴキリと首を動かし、直ぐに気道を確保した。
「まだ倒れるなよ、御庭番衆ゥ!!」
「俺は貴様に倒させる程安くはない」
そう言いきるとこの仕合が始まって十数分、ようやく四乃森蒼紫は両腕を上げ、小太刀を構えた。小太刀を重ねた斜め十字に構えた剣閃────。
二度の剣撃は戌亥番神の顔とドレッドヘアーの一本を斬り裂き、戌亥番神は吹き出している自分の顔の血を拭い、凶悪に笑みを深めた。