いよいよ、しとりの仕合です。
マスター・シャーフーが何食わぬ顔で関係者席に座っていることに疑問を抱きつつ、彼のおかげで危険は去っていたので受け入れましょう。
しとりと臨獣拳の拳士の希望で闘技場はシンプルな路上に見える砂地。投げ落とせば絶対に痛いし、苦しい場所ですけど。
本当に大丈夫ですよね。
「ん、がんばる」
「父ちゃんも応援してるからな」
「ん!」
フンスと胸を張って気合いを込めるしとりは闘技場に向かい、すでに闘技場に座って待っている臨獣拳の拳士は動かずにいます。
陸海空のどの流派でしょうかと考えながら、私の近くに戻ってきたひとえは「あの人ね、とりさんの臭いがしたよ」と教えてくれた。
「かーさま、ひーより強いの?」
「えと、お母さんは戦う人ではありませんから貴女達のように気配を感じたりすることは出来ないですから、強い云々は分からないですねぇ」
視野角の広さというのもありますが、私は近視乱視の視界は眼鏡を外すと曇りガラスみたいになってしまいますから、分からないことは素直に応えます。
強さは不安です。
しとりが強いのは知っていますけど、こうした年の差や体格の差のある本気の勝負を見るのは初めてです。とても心配になります。
操さんもしとりと臨獣拳の拳士の体格の差に気づき、何度も見比べています。
「青龍の方角。大陸伝来の謎多き拳法『獣拳』を広めるためにやって来た孤高の拳士。千差万別、変幻自在の大陸の拳法は如何に魅せるのか!臨獣拳、ハカイタ!」
「小鳥、貴様の嘆きを聞かせて貰おう」
緩やかに笠を外した顔は、やっぱりリンシーでした。リンリンシーだったら良かったんですが、そう都合良く物事は動きませんね。
ハカイタ……ハイタカのアナグラムですね。
「白虎の方角。その姿は雪の如く美しく可憐、剣を振るう姿は苛烈!最強の喧嘩屋と最高の智者の血を継ぐ剣道小町!神谷活心流、相楽しとり!!」
「ん、わたしが一番強いよ」
あっけらかんと宣言するしとりに会場のボルテージは上がり、操さんは「左之助の子供だから強気で度胸もありまくりね!」と笑っています。
自信満々に笑っているしとりを見下ろし、リンリンシーのハカイタは優雅に扇子を閉じ、門の近くに戻って緩やかに構えます。
しとりは電光丸ではなく、普通の竹刀です。
電光丸を使っていいと伝えているので、腰に佩いていますけど。使うタイミングはしとりの好きなときとしか言えません。
「いざ、尋常に────始めェ!!」
その言葉が響き、しとりは正眼に構えず、無形のままハカイタの事を見つめています。