八宝斎の小さな身体を狙って放たれるティンベーとローチンの総攻撃は一度も当たらない。伊差川君の顔色は苛立ちに染まり、技の冴えが消えていく。
「ほいっ」
「ぐがっ!?」
「ワシより歳上なのに弱いのう」
そう言って煽る彼の目的は冷静さを奪うことでしょうね。伊差川君は激情家で、どうにも怒りやすい。宇水もそのことに気づいているはずなんですけど。
あの反応を見るに、教えていませんね。
「景、どういうことだ?」
「打点の違いです。伊差川君は八宝斎君の全体を狙っていますけど。逆に、八宝斎君は武器の剣先だけを狙って返し技を繰り返しているわけです」
当たらない───ではなく、当てる場所を誘導されていることに伊差川君が気付いていないんです。おそらく受け手に回っても変わりません。
倒すには技を上回るしかありません。
しかし、眼力琉球武術はファランクス型式に近しく盾を構えて突進するため、攻撃の要とも言える宝剣宝玉の動きを阻害してしまっている。
宝剣と宝玉の二つを分離し、両手で攻撃を行えば活路を見出だす事は可能でしょうが、かなり危険を伴う攻撃になってしまう。
「宝剣宝玉百花繚乱ッ!!!」
「偽物ばっかりじゃな」
ヒラヒラと繰り出される宝剣宝玉の猛攻を避けた八宝斎は扇子を仕舞って、手を出して構えた。無差別格闘流の元祖の本領を発揮する気になったのでしょうね。
服の中から次々と風呂桶を取り出していき、闘技場にばら蒔いた刹那、八宝斎の姿が消える。いえ、あの風呂桶の中に隠れ、高速で移動しているのでしょう。
「左上の四番目!」
「惜しいですよ、しとり。左真ん中の三番に転がり込み、礫を飛ばして、入った場所を誤魔化し、背後から奇襲を仕掛けているんです」
「ん!」
「……よく見えるな」
「眼鏡をつけていれば追えますから。まあ、裸眼で全てを見つめているしとりやひとえに、そろそろ目の使い方で追い越されてしまいそうです」
そう左之助さんに話しながら、この子達の子供にもこの目は受け継がれているのなら安心です。しかし、未来を見る力だけが特化してしまえば、とても苦労してしまうかも知れませんね。
「おのれぇ!!」
「また熱くなってきたな。糸魚」
「宇水、ここは主催者席だ」
「そう固いことを言うな。片腕の俺など捕まえようと思えば容易く行えるだろう」
袖の中に何かを仕込んでいますね。
ですが、私は戦えないので無視します。
いえ、気付いていないふりですね。無視するのは悪いことですので、私は宇水に座椅子を差し出して、左之助さんの隣に移動する。
「軽いな、42キロぐらいか」
「女性の体重は禁句ですよ、宇水さん」