恵さんの診察を受け、重度の過労だと言われた私は両目を塞ぐように包帯を頭に巻き、寝室で眠っています。いえ、寝転んでいるのほうが正しいです。
暇なので白紙の本を手にとって読む。
何も書かれていないわよ
その声に「私には見えているので大丈夫です」と言葉を返す。実際に私には見えています。本を捲る感覚で「前世の記憶の保持」の精度を底上げし、自分の思い出した漫画や参考書を読み返している。
日に日に本の数は増えますし、全世界の前世の本の内容は本棚にあります。今の本棚は図書館より多く、一億と九千万ほど脳内に本があります。*1
じゃあ、貴女には何が見えるの?
「今日は月光条例です。あと十年以内に貴女もチルチル……散吉に出会いますね」
チルチルが誰かは知らないけど。そこにカグヤがいるのなら私は会うわ。────いや、会わないと月光条例という「物語」は進まないのね?
「フフ、どうでしょうね」
彼女の指摘に私は笑います。
しかし、困りました。独り言を言っていると、きっと左之助さんは勘違いしているでしょうし、しとりとひとえには内緒にするように伝えています。
「かーさま、抱っこしてー?」
「その声はひとえですね」
トタトタと近づいてくる足音の方に視線を向け、私の近くに座る音に視線をそちらに修正し、ひとえの体格ならここかな?と手を伸ばして、彼女の頬っぺたに触れ、優しく頭を撫でてあげ、膝枕をしてあげます。
「んぇへへ…♪︎」
「フフ、どうしました?」
「かーさま、ひんやりしてて気持ちいい」
「それなら、この冷え性も役に立ちますね」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」
しとりのがなる唸りにビックリし、ひとえの頭を撫でる手を止める。恐る恐る、ひとえに何があったのかを聞いてみます。
「なにがあったんですか?」
「ねーさまの弱点、にーさまにバレたの」
「ああ、虫やカエルが苦手なの。そういえば隠していましたね。好きな子を虐めたくなる感覚、私にはまったく分かりませんけど」
次に戦うのは、しとりと剣路君なんですけど。
仕返しがすごそうだな
そう頭の中に声が聞こえます。
確かにそうですね。
「しとり、もっかい!もっかいだけだから」
「やっ!今日のけんちゃん、変だもん!」
「(左之助さんみたいに好きな相手を虐めるのが好きになっちゃっていますね。これも、糸色の宿命なのなら、とても悲しくてイヤな宿命ですね)」