「ホホウ、コイツが斎藤も緋村も手を焼く天才物書きの嬢ちゃんか!小さいのに随分と不運な生き方してるみてえだが、大丈夫かい?」
「えと、大丈夫です。夫と娘が居ますから」
「羨ましい限りだなぁ」
この人は本気で言っているのだろうけど。
のらりくらりと言葉の真意は掴めず、飄々とした態度を取って俯瞰の視点で私達の事を見ている。永倉新八の強さは史実は当然として、数多く存在する時代漫画や剣豪小説等々に記されている。
なにより斎藤一が敬語を使う相手だ。
絶対に強いと分かる。
「しかし、池田屋で戦った四人がこうして集まるのは奇妙な縁を感じるな。特に沖田対緋村の優男対決、斎藤との因縁の始まり、そして近藤局長と一度きりの死闘……目を瞑れば今でも思い出せる」
「俺は池田屋にいなかったぞ」
「拙者もでござる」
「私は別件でしたが?」
「あれ?そうだっけか?」
いや、この人はシンプルに適当なんだ。
「景、永倉新八ってのは強いのか?」
悠久山和尚と話していた左之助さんが戻ってくるなり、そう問い掛けてきた。……左之助さん、私が彼に驚いていたところを見ていたんですね。
「強いです。新撰組二番隊組長、その剣撃を受けたものは地面に叩き潰されたなんていう噂を聞いたことあります。なにより斎藤さんが敬語を使う相手ですよ?」
「確かに、そりゃあそうだな」
「ん!そうだなー」
「あの鷲塚ってのは?」
「……彼の事は知りません。ただ、幕末の事を記した本に彼の名前は載っていませんでした。おそらく新撰組内に於ける遊撃部隊、あるいは秘密裏に行動する部隊だったんじゃないでしょうか?」
私の言葉に鋭い六つの視線が降り注ぐ。
ささっと左之助さんの背中に隠れて、私の発言に警戒心を露にした斎藤一と永倉新八、鷲塚慶一郎の視線から逃れるためにしとりを抱っこして左之助さんの背中に逃げ込み、ほうっと安堵の溜め息をこぼす。
そういう怖い目はやめてほしいです。
「要するに強いヤツが揃ったわけだな。剣心、そろそろオレ達は宿に帰るけど、お前はどうする?」
「拙者はもう少しだけ残るよ。それに斎藤のアレを見ておかねばならぬでござる」
アレとは武装錬金の事だろう。
緋村剣心の武装錬金は全刃刀という物に酷似していたけど。緋村剣心が逆刃刀を手放さない限り、その特性を知ることは二度と無いだろう。
そもそもあの形状は緋村剣心の心の奥底に秘めていた人斬り抜刀斎としての精神を具現化してしまっているだけであり、今の緋村剣心には関係ない。