「景、下がっていなさい」
「景、下がってろ」
二人の言葉が同時に聴こえると同時に私の目の前で左之助さんと姿お兄様の拳と鞘に納めたままの脇差しが衝突し、ビリビリと凄まじい衝撃波が巻き起こり、露天牢を囲う柵の一部が粉々に弾け飛ぶ。
突然の出来事に驚く間もなく蛮竜を拾った左之助さんと姿お兄様が鍔迫り合いながら露天牢を離れ、殺し合いの様に荒々しく脇差しと大鉾を振るい、お互いの身体を斬り結び、火花を散らす。
「うぉらっ!」
「シィヤッ!」
大きく分厚い蛮竜の刀身が姿お兄様に競り勝ったその時、鋭く速い橫一文字の剣撃が蛮竜の柄を捉え、再び大鉾を弾いた。
「……まあ、槍使いとしては及第点だね。景、そろそろ僕は帰るけど。下手に追おうとはせず、君だけは東京に戻ることをお勧め゛ッ!?」
「ようやく一発返せたぜ」
しかし、左之助さんは蛮竜を弾かれても拳を握り締めて姿お兄様の顔を殴り、力任せに地面に殴り倒してしまった。倒れ伏す姿お兄様に向きかけていた歩みを左之助さんに戻す。
小さく、微かに笑う声が聴こえた。
「……痛いな。うん、痛い、久しぶりに殴られた」
「チッ。二重の極みでも倒れねえのか」
「いや、倒れてはいるし、傷付いてもいる。相楽左之助の拳は確実に僕の身体を砕いていたけど。ちょっとした影響で傷の治りは速いんだ」
そう言うと姿お兄様は脇差しを拾って鞘に納めると凍座白也に視線を向ける。すでに彼方は緋村剣心の剣撃を受け、気絶しているけれど。
満足げに笑みを浮かべている。
ゆっくりと近づいてきた姿お兄様の身体に違和感を抱く。左之助さんが昔より強くなっている、それなのに姿お兄様はダメージを受けた様子はない。
「相楽左之助、君は良い義弟だ。今後ともウチの妹を宜しくお願いする。じゃあ、僕は帰るけど。軍人さんも警官さんも邪魔しないでくれよ」
のんびりと散歩するように露天牢に背中を向け、歩いていく姿お兄様の背中に思わず手を伸ばしてしまう。この世界に生まれ変わったとき、ずっと優しくして怖いことからも私を守ってくれた。
「今までお守りして頂き、ありがとうございます。確かに世界は怖いことばかりですが、私には最愛の夫と娘が産まれました。だから、もう大丈夫です…!」
「うん、知っているよ。でも僕は僕の選んだ選択肢を変えるつもりはない。如何なるものからも君を守ると誓ったからね。まあ、それは義弟に譲るけど。僕は好き勝手に妹を守るだけさ」
姿お兄様は穏やかに笑って五稜郭を出る。