緋村剣心と鵜堂刃衛の死闘から二週間ほど経った頃、ようやく手入れの終わった斬馬刀を受け取った左之助さんは早速と言わんばかりに神谷活心流道場に出向き、緋村剣心と喧嘩に向かってしまった。
二人の関係は親友や相棒ではなく、単なる喧嘩友達に落ち着いているけれど。いつ、ふたりの関係に溝が起こるのかは全く持って不明のまま────。
「貴女ッ、そこの眼鏡を掛けた貴女よ!!」
「えっ、あ、私ですか?」
少し切羽詰まった声色に慌てて後ろに振り返ると、そこには息を飲むほどに綺麗な美女が髪を乱し、肩で息をしながら立っていた。こんな綺麗な人と知り合いだっただろうかと首を傾げてしまう。
いや、私は該当する人を一人だけ知っている。
「貴女、あの屋敷に来ていたわよね。お願い、どこか隠れられる場所に連れていって!」
「わ、わかりました」
どうやら私は武田観柳の事件の当事者の一人になってしまったらしく、その事実に身体が竦み、地面にへたり込まそうになるけど。彼女の手を握り返して、左之助さんと緋村剣心がいるであろう河原に向かう。
人混みを押し退けて走る私達に不審な視線を向ける人や驚いて怒鳴る人もいるけど。全部追っ手がいるかも知れないという不安に駆り立てられ、私は彼女の制止を無視して大橋から土手へと飛び下りた。
「左之助さん、受け止めて下さい!」
「嗚呼、もう頼む相手を間違えたわ!?」
「あ?えっ、うおおぉぉぉぉっ!!?」
斬馬刀を構えていた左之助さんは私達を見上げるなり、慌てて両腕を広げて抱き止めてくれた。突然の落下に困惑する左之助さんと緋村剣心に「この人、誰かに追われてるんです!」と言えば瞬時に周囲を警戒する。
「其処かッ!!」
「チィッ!?」
緋村剣心が気配を感じた土手の藪に向かって逆刃刀で地面を抉り投石を行った瞬間、目付きの悪い小柄な男が藪の中から飛び出し、無数の投石の嵐を避ける。
「斬左、知り合いでござるか?」
「ふざけんな、こんなヤツ知るかよ。大体、嫌がる女のケツを追い回す下衆野郎なんぞと喧嘩したって面白くも何ともねえだろうが」
「誰が下衆野郎だ、この馬鹿面がッ!!」
いつもと違って、何処かわざとらしく相手を煽った左之助さんに怒りを露にして叫ぶ男、その後ろから髭面の男と股引きを出した男が現れる。
「一人じゃなくて三人で追い回してたのかよ」
「流石に拙者も引くでござるよ」
斬馬刀を拾った左之助さんがまた煽りながら、私と彼女に指を揺らして逃げるように合図を送っているのが見え、彼の意図を察した緋村剣心も煽りに加わる。
「ブッ殺せッッッ!!!?」
「斬左、ヤツは任せる」
「おう。雑魚二匹は任せた!」
その怒声を合図に私達は駆け出し、今度は神谷活心流の道場を目指して走る。彼処なら二人も場所を知っているし、みんなも直ぐに集まりやすいはず、二人が相手してくれている間に彼女を連れて逃げないと…!