「あれはそう、私が樺戸集治監を襲う砲撃から緊急避難していたとき、世にも恐ろしい化け物に襲われ、死に物狂いで逃げていた時です」
いきなり語り始めた武田観柳に戸惑いつつ、河童を見つめるしとりを抱き上げ、左之助さんの隣に移動してソファに腰掛けて彼の話を黙って静聴する。
「胡瓜を片手に持った彼が私達と化け物の間に割って入り、それはもう見事な組みを行い、上手投げ、張り手、合掌捻り、巻き落とし、華麗な大相撲の技を繰り出し、化け物の身体を砕き、破壊していったのです!」
「そう褒めるなあ、照れるぞお…」
「何を言うのです!あの力強さ、無類力士と讃えられた雷電爲右エ門を上回っています!」
バリボリと胡瓜にお味噌を付けて食べながら恥ずかしそうに呟く河童に「やっぱり河童だから相撲が上手いのか」と左之助さんは感心し、何やら相撲に熱の入った言葉を続ける武田観柳を見つめる。
「熊の様な身体をした化け物との相撲など御伽噺の金太郎を思い出しましたよ。あの大相撲を見てからというもの、心の昂りが止まらない!」
「武田さん、楽しそうですね」
「人間も変わるもんだな。しっかし、その割にはソイツを飼い犬みてえに傍に置いてるのは何でだよ、ソイツに助けて貰ったんだろ?」
「えぇ、助けて頂きましたとも。ですが、この河童は倒した化け物一匹に対して、千本の胡瓜を要求してきたんです!おかげで此方は赤字ばかりですよ!?」
「お、おう、そうなのか……」
余りの迫力に左之助さんが気圧されている。
しかし、妖怪ひとりに対して千本の胡瓜。
お味噌や他の香味や香辛料、おかず、部下の生活を維持するためには粗悪品を売らなくてはいけない理由も理解できました。まあ、私達が無理やり止める事の出来ない契約を結んでいるのは事実ですね。
「違法では追い付かない!脱法でも粗悪品を売り続ければ購入率は下がり、そこでMy弟子の阿爛が考えた剣術を売り、さらに河童仕込みの相撲で部屋を開き、小樽に
「妖怪の業を教えるのか考えたな」
「わしが親方なあ、勤まるかなあ」
間延びした言葉を呟く河童を励まし、何度も説得する武田観柳の根気強さに左之助さんも苦笑いを浮かべてしまう。しかし、原作と同様に彼は剣客兵器を相手に商売して、大量の刀を仕入れている。
「糸色さん、改めて私と共に行きましょう!」
「オレの女房だ、他を当たれ」
「ん!しとりの母ちゃん!」
私を守るように抱き締める二人に嬉しさを感じながら武田観柳に「そのお誘いはお断りします。夫と娘も居ますから」と伝える。
「ナンセンスですよ、貴女は本当に!」
そういう女なんです、私って。
「観柳、やめとけぇ…ソイツは長生きせんぞお」
その呟きに空気が凍りついた。