河童の言葉に左之助さんが怒鳴って掴み掛かろうとするのを止めて、私と左之助さん、しとりは宿屋に戻る道中も河童の言葉で真剣に悩む彼に苦笑を向ける。
でも、流石に神様の依代を務める河童だ。
私の身体の不調を見抜いて、ごく当たり前のように言い放ったのだから本当に妖怪は人の感情の機微に疎くて仕方ない人達だと私は思う。
「核鉄、核鉄が有れば助かる…」
「左之助さん、先ずは落ち着きましょう」
「落ち着けるかッ!!!大事な女が死ぬかも知れねえのに落ち着ける男がいると思って……悪い、怒鳴るつもりはなかったんだ」
「フフ、知ってますよ。しとりも泣かないで、お父さんは怒ってないから、ね?」
「やっ!」
私の身体にしがみついているしとりの背中を優しく叩いて慰めてあげながら、苦しそうに顔を歪める左之助さんにも「ほら、一緒に考えましょう。左之助さん」と告げ、ぎゅうっと彼の手を握る。
大きくて安心できる大好きな人の手です。
「景、絶対に助けるからな」
「……はい、期待しています」
これからの生き方も考えないとですね。
左之助さんだけでしとりを育てていけるのか不安ですし、もしものときのために薫さんか巻町さんにお願いしておこうかな。……怖いことばかりだったけど、左之助さんに出会えたのは幸運でした。
なんだか、湿っぽいからやめよう。
「ねえ、あれって相楽左之助かな?」
「おお、マジじゃねえか!」
しんみりとしていた私達の事なんて知らない騒がしい声が聴こえ、左之助さんと一緒に後ろに振り返ると、そこには男女の二人組がいた。
「誰だ、今相手してやる暇はねえぞ」
「あーっ、アタシの目的はアンタじゃなくて隣のお姉さんだから喧嘩を売るつもりはないわよ。ってか、信二が騒ぐからいけないのよ?」
「オレかよ!?」
えっと、誰でしょうか?
アイヌの民族衣装を纏った女性と軍服を着た青年が言い争いながらも私に近づき、ゆっくりと穏やかな笑顔で右手を差し出してきた。
「初めましてになるわね、ウチの鷲塚がお世話になってるみたいだから話に来たの。アタシはススハム、見ての通りアイヌで、
「初めまして、相楽景です」
「じゃあ、相楽カッケマッね」
その言葉の意味に首を傾げる左之助さん。
でも、私はしっかりと彼女の言葉の意味を理解しているので、にっこりと微笑んで握手に答える。
「カッケマッ」はアイヌ語で奥様や婦人を意味するため、私を表すには合っている言葉ではあるけど。なんだか別の漫画が脳裏に浮かぶわね。
ヒンナヒンナ……。
「オレも握手……あの、怖いっす」
「相楽左之助、信二はバカだから許して欲しい」
「……バカなのか、オレ?」
その呟きに左之助さんは納得するけど。私と彼の握手を許すことはなかった。ススハムさん曰く「信二はバカだけど、強いからドクトルが迷子のコイツを連れてきた」と話してくれた。
陸奥出海と鷲塚慶一郎がいるから察してはいたけど。まさか私の体調が悪化しているタイミングで送り込んでくるなんて、ドクトル・バタフライは何処まで未来を見据えているのだろうか。