「はあっ、はあっ!」
「頼んだ身だけど、体力無いわね!?」
「そ、そうですね…はあっ……げほっ…」
普段あまり走ったりしないせいか。直ぐに息が乱れて、フラフラと足取りが覚束なくなりながらも、何とか彼女を連れて怪我も拉致もされずに神谷活心流道場に連れてくることが出来たけど。
武田観柳、そして御庭番衆の向こうには筒抜け。
「糸色さん、どうしたの!?」
「なんだよ、また剣心達が喧嘩してんのか?」
竹刀を持った神谷さんと明神君の二人に事の経緯を話そうにも息が乱れすぎて、まともに話せず、私の背中を擦っている彼女を指差す。
「この人が関係してるの?」
「さっき、この糸色さんと、あなた達の言う剣心さんともう一人の男の人に悪漢に追われてるところを助けて貰ったのよ」
「……はあっ…けほっ……すう、この人の言っていることは本当です。今、左之助さんと緋村さんが彼女の追っ手と戦ってくれているんです」
「なんでェ、ただの悪漢退治かよ」
私の説明に明神君は呆れたように頭の後ろを掻き、また道場の中に戻って素振りを再開し、規則正しい動きの所作で空に向かって面を打っている。
しかし、もう一歩も動けないほどに疲労困憊すぎる私は「神谷さん、この人をお願いできますか?」と伝え、また乱れた呼吸を整えることに意識を集中させる。
「えぇ、任せて!」
「私は高荷恵、この糸色さんとは二度目の顔合わせになるけど。話したのは今回が初めてよ」
「じゃあ、恵さんて呼ぶわね。私は神谷薫、この神谷活心流道場の師範代です」
「なら私も薫さんて呼ぶわ」
二人の挨拶を聞きながら私は正門に視線を移す。まだ、左之助さんと緋村剣心が帰ってこないということは追っ手が追加されたか、御庭番衆の誰かが加勢に加わった可能性も有り得る。
「……先ずは彼女を連れて入りましょうか」
「そうね」
いきなり、そんなことを言い出した二人に抵抗する気力も体力もない私は草鞋を脱がされ、道場の中に運び込まれ、一番奥の部屋の隅に置かれる。
「知恵は有るのに体力皆無、根っからの文職ね」
そう言って私の身体を診察する高荷恵の指圧を受け、あれほど乱れていた呼吸が、ゆっくりとした正常な呼吸へと戻り始める。
「…すう…はあ…すう…ありがとうございます…」
「別にこれくらい大したこと無いわ。貴女に無理させてしまったのは私だもの」
ふいっと顔を逸らす高荷さんにクスリと笑ってしまう。やっぱり、彼女は根は真面目で武田観柳さえ絡んでいなければ優しくて素敵な人なんだ。
「さっきもそうだが、また無理したのか?」
「あの飛び下りは些か肝が冷えたでござるよ」
「飛び下り?」
いつの間にか帰ってきていた二人の言葉の一文に首を傾げ、チラリと私を見つめてきた神谷さんから、そうっと顔を逸らして知らぬ存ぜぬを貫く。
「糸色さーん?」
「し、仕方なかったのよ、ピンチだったから!それに左之助さんなら何があっても受け止めてくれるだろうと思っていたし……」
「信頼の厚さは斬左の予想以上でござるなぁ」
「そんなもん当たり前だろうが」
「おろろ。熱々でござるな」
そこも変なところで言い争わないで…!