解説欄に書き忘れていた文を追加しました。
洞爺湖で神酒を飲んだおかけで、身体の不調は少しだけ改善したけれど。やはり一抹の不安は残ったままであり、いずれ訪れる別れの深刻さを想う。
ただ小樽に帰ってくるときは運んで貰えたので問題はないものの。左之助さんの二人に対する警戒心は消えておらず、軍服の青年は、しとりの遊び相手としてお馬さんになってくれていた。
「景、大丈夫か?」
「はい。すこぶる元気ですよ!」
フンスと胸を張って力瘤を作る私を不安げに見下ろす左之助さんの表情に似合わないなと思い、クスクスと笑いながら彼の頬に手を伸ばす。
ぐんと背伸びして、漸く手が届く距離だ。
ゆっくりと私の腰とお尻に腕を回して抱き上げて貰えば対等な高さ、お互いの顔を良く見える位置に変わり、私は静かに彼の頬っぺたを撫でて、そのまま左之助さんの首を腕を回して彼の頭を優しく抱き締める。
「ほら、ちゃんと生きてますから」
「……嗚呼、ちゃんと聴こえるよ」
トクン、トクン、と鼓動を繰り返す心臓の音を聞かせてあげる。神酒のおかげで胸の痛みも弱まっているから、変な呼吸音はしなくなっている。
しかし、緋村剣心を襲って核鉄を奪っているんじゃないかとヒヤヒヤしていたけど。左之助さんも我慢して私を待っていてくれたんですね。
「……そろそろ降ろして貰えますか?」
「まだ、ダメだ」
「相楽ニシパは愛妻家ね。ウチの鷲塚は無愛想で直ぐに怒る癖に面倒臭い性格だから疲れるわ。信二は信二でアホだから使い物にならないし」
「だから、アホじゃないってば」
そう言って私達のやり取りを見ていたススハム達に申し訳無さを抱きつつ、居るなら居るで咳払いなり何なりして欲しかったと思ってしまう。
「まあ、ご飯にするわよ。流石に疲れた」
「……アイヌのご飯ですか?」
ヒンナヒンナと頭の中に言葉が聞こえる。まだ左之助さんは私の胸に顔を押しつけて、心臓の音を聴いている。そういえば心臓の音にも安心感を与える効果というのもありましたね。
「相楽カッケマッ、ヒンナヒンナしたいの?」
「えぇ、興味はあります。左之助さん、ご飯の準備をしますから離して下さい、……左之助さん?あの、これって臭いを吸ってますか?」
「猫吸いみたいなものね。アタシが料理してるから夫婦で仲良くしてて、信二はもっと丁寧にお守りをしろ。飯抜きにするぞ」
そう言うと旅館の調理場へと向かうススハムの事を見送りつつ、私の胸に顔を押しつけている左之助さんの頭をペチペチと叩き、しっかりと「人前でそんなことはしちゃいけません」と訴える。
全く、しとりもいるのにダメですよ!
【概要用語解説】
本作の単語や転生者に関する事を解説します。
【ススハム】
本名「ススハム(柳の葉)」。
年齢は二十九歳。身長166cm。
元を辿れば「地獄門」を監視するアイヌ民族の末裔として生誕した転生者。地獄門の捜索を行う新撰組隊士「鷲塚慶一郎」と出会い、自分の生まれ変わった世界を「月華の剣士」と理解し、彼の捜索と調査に助力し、無事に再封印することに成功した。
そこから「月華の剣士」に関する事件や出来事に関わりつつ「鷲塚慶一郎」と生活し、戊辰戦争や西南戦争に参戦した彼の帰りを待って、その後、アイヌの一族に彼を連れ帰った。
転生する際に選んだ「特典」は「何よりも速く駆け抜ける脚」と「最高の出会い」。
一つ目の特典は「何よりも速く駆け抜ける脚」によって妖怪や物の怪より素早く動け、強靭な脚力と瞬発力は縮地を越えた音越えの世界に到達する。
-上記の追加項目-
ただ、余りにも速すぎる動きは肉体を傷つけ、音速の壁にぶつかる度、肉体に多大な負荷を掛けるため多用すればする程に自律神経に異常を来す危険性を伴う。
二つ目の特典は「最高の出会い」は男運の無かった前世の自分を励ますために選んだ結果、鷲塚慶一郎という最高のパートナーと出会う切っ掛けになった。