斎藤一と永倉新八、鷲塚慶一郎の三人との合流までまだ一週間ほど猶予もあり、私は背中の傷痕の有無を毎朝毎晩に左之助さんに受けている。
胸を隠して背中を見せる度、恥ずかしさを感じるけど。私の事を大事に想ってくれているという気持ちが分かって、実はとても嬉しかったりするのです。
「漸く消えてくれたな」
「背中は自分じゃ見えませんからね」
はだけていた着物を着直して身体の向きを入れ替える。しっかりと左之助さんを見れば、まだ不安の残っているという表情を浮かべて、私の事を見つめている。
「そういえば左之助さん、新しい絵物語を書こうと思うんですけど。読んでみますか?」
「……良いのか?」
「まだ半分も描いていませんから大丈夫です」
そう言って私はアタッシュケースの罠や仕掛けを解除して原稿用紙を取り出す。やはり
もっと良い紙を作って貰わないとですね。
「…………『双亡亭壊すべし』?」
「まだ誰にも見せてませんけど」
これは前世の私が最後に読んだ作品「双亡亭壊すべし」であり、最も印象深く私の心に残る作品だ。主人公を差し置いて、あの頃の私の心を惹き付けたのは双亡亭の主人逆巻泥努だった。
彼の在り方は人と関わる事を止めてまで仕事というモノに取り憑かれていた私に似ていて、此方に生まれ変わって不安と絶望に取り憑かれていた私は左之助さんに出会わなければ彼の生き方に近付いていたと思う。
「何か主人公は景に似てるな」
「……似てませんよ。私は弱いですし」
「強い弱いじゃねえさ。怖いけど、必死に足掻くところが似てると思っただけだ。しかし、これでもまだ完成してねえのか」
「……まあ、描くにしても覚悟が要りますから」
ずっと違和感を感じていた。
ドクトル・バタフライの言葉と行動、そして複数の転生者と出会って、漸く私も確信を持つことが出来るようになった。
この『統一された世界』を拡大・拡張出来るのは私だけだ。だからこそドクトル・バタフライは私を守り、世界の行く末を見せようとしている。
「(本当に、どうして私なんでしょうね)」
そう思わずには要られない。
この世界を心から楽しみ、望んでいるドクトル・バタフライではなく、この世界を心から不安に思い、生きることを恐れている私に神様はどうして世界の核に成り得る可能性を与えたのだろうか。
「面白いな。続きが読みたくなる」
「フフ、じゃあ描かないとですねえ」
でも、その時が訪れるときはドクトル・バタフライが居るのだから大丈夫でしょう。この世界で生きることを純粋に楽しんでいる彼は何処までも高く舞い上がり、羽撃くことのできる人ですから。