蛮竜を振るって鍛練を続ける左之助さんににじり寄って大鉾を見せてほしいと頼み込んでいる沢下条さんに苦笑いを浮かべる。
しとりにお手玉や拳玉を使って遊び相手になってくれる本条さんと悠久山和尚を眺めていると視線を感じて、中庭の出入り口に顔が塗り潰されて表情の見えない男性が立っていた。
五年前にも私の知らない情報を伝えてくれたドクトル・バタフライとヴィクター・パワードという圧倒的な強者達と情報を共有できる人だ。
みんなに気付かれないように玄関から出ると彼は左之助さんの姿に変わり、更に向こう側の人通りを指差して人混みに紛れるように歩き出す。
「あの、何かあったんですか?」
「吾の事はどうでも良い。吾の目的は貴様の腹に据えた餓鬼に貼り付いとる塵を取ることじゃでな」
「んあッ……かひゅッ!?」
いきなりお腹に手のひらを押し当てた彼は直ぐに手を引き抜き、真っ黒で何かが蠢くものを握り掴んでいるのが見えた。
「何百年経とうと虫は多くて困る。況してや小娘に貼り付いとる塵など不快じゃわい」
そう言うと真っ黒で何か分からないものを彼が握り潰した瞬間、身体の重さが少しだけなくなった。いや、まだ身体の重さと不調は残っているけど。
「何をしたんですか?」
「妖怪の遣る事は決まっとる。極蝶に言うとけ、下手に伸ばすより潰しとけば終わる。……あと、腹に据えた餓鬼は元気に産まれるぞ」
「……え?えっ、わあお……」
「明日、養分になるものをくれてやる」
一瞬、何を言っているのかと困惑しながらも彼の言葉を理解した瞬間、ようやく状況を把握することは出来たものの。しとりの時より負担を感じない。
「景、さっきのオレは誰だ」
「きゃあっ!?」
いきなり真横に現れた左之助さんに驚き、転びそうになったところを抱き締められながらも「び、ビックリさせないで貰えますか?」と伝える。
「……コホン、大事な話があります」
「離縁ならお前を閉じ込める」
「こ、怖いこと言わないで下さい」
「オレは本気だから問題ないだろ」
左之助さんの言葉を聞き流して彼を見上げる。
「左之助さん、二人目です」
「………………ん?」
「二人目ですよ、お父さん」
「……ょ……ッシャアァァッ!!!」
突然の雄叫びに歩いていた人達が一斉に動きを止めて私達の事を見つめる。あの、嬉しいのは分かりますけど。そんなに叫ばれると恥ずかしいです。
私の事を抱き上げて抱き締める左之助さんの頭をペチペチと叩く。……でも、薫さんはきづかなかったのに、どうして彼は気付いたのだろうか。
遂に、例の転生者が登場です!
本当は第一部の出すプロットはあったのに、もっとタイミングの良いときに出したいという欲求によって、ようやく登場させられました。