ズキズキと痛みを訴える身体に力を込めて警察署に入った私は胸の真ん中に核鉄を当てて深呼吸を繰り返す。闘争本能に呼応して形状変化を行う超常の合金、今だけは私の生命を繋ぐための要だ。
五年前に比べると明らかに反応速度も恐怖に竦み怯える感覚も鈍くなっている。おそらく奈落が私の身体から妖怪を引き抜いたとき、妖気や邪気、瘴気という身体を蝕む類いのものは抜けきっていないのだろう。
弥勒様や犬夜叉もそうだったし。
「母ちゃん、だいじょぶ?」
「…勿論、お母さんは平気よお?」
フンスと胸を張って力瘤を作る真似をして、しとりの事を抱き締める。彼女を抱き締めていると暖かくて心から身体が暖まる様な熱が籠っていく。
「相楽殿、お怪我は!?」
「私は平気です。それより斎藤さんを」
「いや、斎藤なら大丈夫だ。見てみな」
そう言う永倉新八の言葉に促されるように窓枠に手を掛け、背伸びして窓の外を見ようとするしとりを抱っこして、こっそりと警察署の外を見る。
「宝剣宝玉、百花繚乱っ!!」
「その技は一度見ている!!」
黄金の亀甲を背負った伊差川糸魚の連続攻撃を日本刀の武装錬金で受け止めた斎藤一が左片手を引いて日本刀を突きつけるように構える。
左片手一本平突き「牙突」だ。
「ん!ガトチュッ!!」
「ん゛ふッ……フフ…フフフフッ…」
しとりの拙い言葉に前世のミームを思い出して、咳き込みながらクスクスと笑ってしまう。永倉新八と鷲塚慶一郎はそんな私に顔を見合わせるけど。
直ぐに斎藤一と伊差川糸魚に視線を戻す。
やはり魚沼宇水を倒した技を警戒し、黄金の亀甲を構えて円を描くように斎藤一の周りをゆっくりとすり足で歩き、間合いと隙を探っている……と思う。
「永倉殿、どう見る?」
「斎藤の死角を探してやがるな。牙突は刺突技を極限まで高めた物、そこから横薙ぎに軌道を変える。だが、そりゃあ左側に、だ」
「つまり、右側は確実にがら空きになる?」
「お嬢ちゃんの言う通りだ。ただし、その死角を理解されて尚もアイツの牙突は無敵だ」
永倉新八がその言葉を呟いた刹那、斎藤一が一瞬にして伊差川糸魚に切っ先を向け、真っ直ぐ一直線に突進し、黄金の亀甲と武装錬金の日本刀が衝突した。
「……弾けた?」
「馬鹿な、斎藤の牙突が跳ねるだと!?」
「二人の技術が拮抗しやがったか。あの隻眼のボウズ、若いのに随分と練り上げてやがる、久々に俺も剣客として血の昂りを感じるぜ」
ぐるりと素早く体勢を立て直した斎藤一が二度目の牙突を繰り出そうとした瞬間、乾いた発砲音が聴こえ、そちらに視線を向けると阿部十郎が立っていた。
「斎藤、状況を説明しろ!」
「五年前に倒した敵の弟弟子だ」
「ただの弟弟子じゃない!貴様に片腕を奪われながらも宝剣宝玉に心血を注ぐ宇水さんの弟弟子だ!!そこを間違えるな、クソ警官が!!」
…………えっと、魚沼宇水は死んでいない?
私の知らない事実に戸惑いを隠せない。