しとりと宿舎の一室で過ごすとき、その人影は定期的に現れて直ぐに消えるという事を繰り返す。その度にしとりは両目を見開き、窓や扉など出入り口になる場所を見つめる事が多くなってきた。
子供は多感だから不思議なものを見ることが出来るなんていう話は聞くけど。糸色家の血筋は元々幽霊や妖怪を鎮める霊媒師も請け負っている一族だ。
その霊媒師の能力が隔世遺伝したのかな?
「ん!つかまえた!」
「む、虫は怖いからやめてね?」
「あげる!」
にっこりと太陽のように笑うしとりが両手を広げたその時だった。それはしとりの影から這い出るように現れた、その姿形はおぼろ気に見えるけど。
それは確実に存在している。
「嬢ちゃん、お前の母者は本当に私が」
「見えますよ、うっすらと。黒衣の方」
「幸先上々だな」
「ん!母ちゃん、しとりのこま!」
独楽?
いいえ、違うわね。
こま、駒……。
「(まさか妖逆門の個魔なのだろうか?)」
いや、そうなると私に見えるのはおかしい。個魔は基本的に
私は妖逆門に参加する資格は持っていない。
「そう警戒するな。嬢ちゃんを巻き込むつもりはないし、母者を連れていくつもりもはい。ちょいと面白そうな同類に出会えて楽しくなっただけだ」
その声色は確かに弾んでいる。
ハスキーボイスの穏やかな声だけど。
私には個魔の姿はハッキリと見えないし、彼、あるいは彼女の言葉を信じるにしても不安は募るばかり。ここは、左之助さんに相談しましょうか。
「しとり、個魔さんは男の人?女の人?」
「ん!……どっち!?」
「私は生物学上は女だよ、嬢ちゃん」
「おねえしゃん!」
男の人だったら本格的にお祓いをお父様に頼むところだったわね。個魔といえば一心同体に近い関係になるから、左之助さんに話して、話し……彼女のこと左之助さんは見えるのかしら?
そう思いながらしとりを抱っこして、膝の上に乗せてうっすらと見える個魔を見つめる。妖逆門は関係無いとは言っていたけど。
それが本当なのかも怪しい。
「(……あっ、普通に人を疑える様になってる)」
「で、だ。私の頼み事を聞いて欲しい」
「そう言われましても……」
「私の頼み事は影に住ませて貰いたいんだが」
「しとりを狙うのであれば私の持つ全ての人脈を使って全国各地の霊媒師を集めて、貴女の事を滅するまで永遠に追い掛けます」
「怖いな、あとでまた来るよ」
私の言葉に人影は揺らぎ、しとりの影に沈んだ。
「母ちゃん、ちゃんとそだてる!」
「妖怪を犬猫のように言わないの」
そもそも妖怪を育てるなんて出来るのだろうか。武田観柳は今も河太郎に胡瓜を献上しながら、相撲部屋を開業しているし、やはり難しく感じるわね。