武田観柳邸に左之助さん達が来る気配は未だに無い。いや、そうなるように武田観柳に、おそらく四乃森蒼紫が提案したのだろう。
少しでも長く私を留め、知恵を奪うためにね。
私は牙の生えた開口の般若面を被った道着姿の男の人と向き合っている。四乃森蒼紫の弟子の一人にして、彼の率いる御庭番衆の二番手を務める拳法家であり、あの緋村剣心を一時とはいえ手こずらせた般若だ。
彼は私のような貧弱な女と二人きりでも静かに背中を壁に預け、何時如何なるときも不意打ちを警戒している。拳法家としても隠密方としても完璧な人───そう思えるほどに彼は四乃森蒼紫の命令に忠実である。
「私の
「あっ、ごめんなさい。縞柄の刺青は珍しくて」
「いや、女には眼の毒であるのは事実。特にお前のように不安と恐怖を常に感じる者にとっては、恐ろしく見えるのも仕方無い事だ」
そう言うと般若は僅かに左右の腕を後ろに回し、自分自身の身体を使って縞柄の刺青を隠してくれた。彼の気遣いに申し訳なく思い、彼の心遣いに深々と頭を下げて感謝と謝罪の言葉を伝える。
「ごめんなさい。それと、ありがとうございます」
「気にするな」
そして、また部屋の中は静まり返る。
私は原作の知識として般若の得意とする忍術あるいは体術たる『伸腕の術』の原理と使用法は知っているけれど。私では緋村剣心のように彼の技法を用いた戦闘の違和感に気づくことは愚か、まともに打開策を見つめることも出来なかっただろう。
それ程までに『伸腕の術』の完成度は高い。
正確に『伸腕』の技法の正体を言ってしまえば縞柄模様の眼の錯覚を用いて放つ間合いを予測不可能に変える変幻自在の拳打とも言える。
「……ボクシングのフリッカー、みたいね」
「
嗚呼、不味いことになってしまった。
───思わず、彼の使う体術の使用法を更に読み解こうとしたため、ポツリと心の中に留めていると思っていた言葉が溢れてしまった上、壁際に居た筈の般若にも聴こえていたらしく、般若面越しに私を見つめる彼の視線が強まる。
「私の腕を見て何を思った」
「ひっ!?」
一切の音も無く早歩きというより、ほとんど床を滑るように近付いてきた般若に私は驚き、そのままバランスを崩して洋式椅子から転げ落ちてしまう。
「女に手荒な扱いは控えたい。素直に言え」
殺される。
そう直ぐに理解できるほど冷酷な眼差しを見つめてしまい、身体の熱が引いていく感覚に身体が強張り、足腰に力が入らなくなる。
「い、
「いぎりす。確か武田観柳の交易相手の国の一つだった筈だが、何故その国の拳法をお前のような女が知っているのだ」
「ほ、翻訳も仕事の一つなので……」
とうとう言ってしまったと後悔する私をしり目に般若は静かに考え込んでいる。ボクシングの戦い方を自分の拳法に取り込めるか、そう考えているのが素人の私にも分かるほどに彼は熱を帯びている。
「その
そう言う般若の目は妖しく光っていた。