某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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武田観柳邸の才媛 急

『ボクシング』の歴史は古代ギリシアまで遡り、近代祖は中世のイギリス又はイタリアと言われるが、明治時代の日本がボクシングを知るのは、まだ後少しだけ先の時代の事になる。

 

その歴史をうっかりミスで私は左之助さん達の敵になる般若に教えることになってしまった。最悪の事態、最低の裏切り行為、そう罵られても仕方無いことを今から私はするんだ。

 

「まず足の歩幅は肩幅に開き、爪先立ちで左側を少し前に出した半身に構えます」

 

「左右前後の移動に適した構えだな。日本の拳法と違い、動きやすさは此方が上か」

 

そう言うと般若は軽やかなフットワークを使い始める。

 

ステップイン、ステップバック、左右へのサイドステップ、教えて数秒も経たずにボクシングのフットワークを使いこなす般若の観察眼と経験による予測の凄さに私は驚嘆してしまう。

 

「歩法と走法の中間の動きは覚えるに値する。糸色殿、このぼくしんぐ(・・・・・)という拳法は、攻撃手段は拳に重きを置くものか?」

 

「まさか、ご存知だったんですか?」

 

「いや、自分の動きと攻撃を出す光景を推測しただけだ」

 

般若の言葉に恐らく嘘はない。

 

───つまり、彼はほんとうに足運びと構えの姿勢をヒントにボクシングの全容を推察し、予測し、仮定して私に尋ねているのだ。

 

もう何度目になるのか分からない御庭番衆の恐ろしさに身体が凍え、冷える。

 

「しかし、この足運びを維持したまま御庭番の拳法を、全力の拳打を振るうのは少々難しい。糸色殿、全てを教えて貰う約束だ」

 

「……は、はい」

 

あれほどまでに物静かだった般若の声色に高揚感、期待感が混ざり始める。

 

強くなる自分に酔っている……ううん、これ更にもっと四乃森蒼紫のために役立つ強さを得ることに喜びを感じているんだ。

 

細くて色白な力仕事なんて出来そうにない左右の腕を軽く持ち上げ、左手と左足を前に出した姿勢を取り、右拳は顔の横か少し下に据え置く。

 

「ボクシングでは左手を牽制、攻撃の要とします。常に軽く握り、脱力した状態で真っ直ぐ打つ。更に鉤突き、昇拳、打ち下ろし、四種の打撃の連携を……」

 

「左手は牽制、こうか?」

 

へろりとした遅く当たったところで痛くもない私のパンチとは比べ物にならない。鍛えぬかれた肉体を持つ般若の突きの速さは空気を裂き、パァンッ!という音が部屋の中に響き、思わず耳を塞いでしまう。

 

「一撃の重さより素早く拳を打つ。私の体得した拳法とは性質の違いはあるが、使いようによっては使い分けることも可能だな」

 

まだ左手の説明しかしていないのに般若は既にボクシングの基礎のひとつ、ジャブの性質と使用法を理解し、フットワークと併用して使えることを私の説明を聞き終えることなく把握した。

 

ぼくしんぐ(・・・・・)の教授、感謝する」

 

般若はそう言うとまた部屋の壁に寄り掛かり、また静かになってしまった。きっと緋村剣心も左之助さんも私のせいで酷い怪我を負う、神谷さんにはどれだけ謝っても許されないだろう……。

 

 

 

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