武田観柳と四乃森蒼紫の許しを得た私は七日振りに、住み慣れた左之助さんのいるごろつき長屋に帰ることが出来るようになった。
しかし、武田観柳の監視もあるため逃げることは出来ず、下手に動けば高荷さんを匿っている神谷さん達に、もっと迷惑を掛けることになる。
「おう。遅かったじゃねえか」
「……ただいまです、左之助さん」
少し散らかった。
うん、散らかった?
まさかと思って慌てて部屋の中を見渡すと書き溜めていた絵物語と水墨画、春画の絵が適当にまとめられ、私の行き先を調べようとした形跡がチラホラと見える。
まったく、もう仕方無い人ね。
「何か食べに行きましょうか?」
「いや、今日は良い。それよりアレ頼むわ」
「はい。左之助さんならいつでも良いですよ」
ゆっくりと左之助さんの隣に腰掛け、着物の皺を正して彼の頭を太股に乗せる。最近は緋村剣心と喧嘩したり、神谷さん達のところにいることが増えて、あまりしなくなっていたけれど。
少しだけ刺々しい彼の頭を優しく撫でつつ、また心配を掛けて彼の重荷になっている気がしてしまい、自分の不甲斐なさと申し訳無さで押し潰されそうになる。
───けれど。今、左之助さんに武田観柳や四乃森蒼紫の事を話すことは出来ない。もしも悪いことに加担していると知られたら、きっと嫌われる。
それが、それだけが私はとても怖いのだ。
「そんなに不安なら全部言っちまえよ。オレも剣心も嬢ちゃん達だってお前を心配してたんだ。……オレじゃ頼りねえか?」
「そんなことはっ、そんなことはありません。左之助さんは頼りになります。この長屋に来た頃から、ずっと貴方に助けられていて、恩返しもまともに出来ていないのに、また私の事で迷惑を掛けるなんて……」
「なら言えよ、オレは東京一の喧嘩屋だぜ?」
そう言うと左之助さんはいきなり身体を起こし、真剣な絶対に聞き出すという眼差しを私に向けてくる。……左之助さんになら言っても良いのかな。
そんな気持ちが、少しずつ芽生える。
「わた、私は兵器の図案を、描きました、貴方や緋村さんと敵対するかも知れない人達に知恵を与えて、強くなる手助けをして、自分だけ助かろうとして、ごめんなさい、私は最低の裏切りをしました…」
ぽつり、ぽつり、と言葉を紡ぐ。
その度に身体の芯が冷えて、私の心に不安が募る。
「兵器の図案ってのは知らねえけど。別にオレや剣心の敵を強くしたことに文句はねえよ。むしろ歯応えのあるヤツと喧嘩できるのは願ったり叶ったりだぜ」
「でも、私は助かるために描いたんですよ!?」
「お前は自分の命を大事にした、そんだけだ。それによ、自分も他人も傷つくのが怖いヤツが誰かを裏切るときは、他のヤツを助けるために決まってる」
しかし、あっけらかんとした左之助さんの言葉にずっと溜め込んでいたものが溢れ、気がつけば私は彼の胸にすがり付き、何度も何度もごめんなさいを繰り返しながら涙を流してしまう。
許されない事をしたはずなのに、彼に裏切りも何もかも肯定され、受け止められたことで安心しきった心が七日間の不安を吐き出すように何度も謝り、彼の体温に包まれて不安が消えていく。
ありがとうございます、左之助さん。