そもそも対策というものができるんですか?と疑問を抱きつつ、そろそろ左之助さんとしとりが迎えに来るんじゃないかと廊下の方に視線を向ける。
「ドクトル、アタシ達に何をさせるつもり?」
「ススハムは何もせずとも巻き込まれるのは確定しているのでね。定期的にお土産は持っていこう。しかし、問題なのはそこではない」
ススハムと面倒臭そうに溜め息を吐いて、未来で起こるであろう金塊争奪戦の事を考える最中、不破信二に何かを耳打ちした瞬間、彼は怖い顔で笑った。
「不敗の柔道家……いいねえ」
その二つ名にビクリと身体が震える。
出来れば会いたくない。いや、二十数年後の北海道で起こる話だから巻き込まれる心配を私はしなくても良いのかもしれないけど。
しとりと、もしかしたら女の子かも知れないお腹の子が心配になるわね。あんな性欲の権化みたいな魔神と出会ったら大変な事になるわ。
「ススハムさん、頑張って下さいね」
「アンタの心配は別方向な気がする」
「?」
「ああ、うん、分かってないのね」
そう言うと私の頬っぺたをむにむにと押すススハムに首を傾げる。私は普通に心配しているだけなので、特に変な事は考えてはいませんよ?
でも、やっぱり戦争は怖いです。
「……俺はどうすればいい?」
「不破君はいつも通りで良いのさ。ただ、戦争に行かなくてはいけない場合、私は全力で君を支援するつもりだが、表向きは君も警官隊の一員だからね」
コスプレじゃなかったんですね、それ。
「コスプレじゃなかったんだ、それ」
「信二は良くやっている方だ」
「奈落、悪人面なのに良いヤツだなあ」
「やはりコイツはダメなヤツだ」
奈落はフォローするような言葉をあっさりとひっくり返し、何とも言い難い事実を言い、ドクトル・バタフライの「まだ話の途中だよ、奈落」という呼び掛けにも答えず、フラリと夜の空に消えてしまった。
改めて考えると転生者という接点が無ければ私達は関わることも無く、偶然どこかで擦れ違った程度の関係で終わりそうなんですよね。
「で、その『ゴールデンカムイ』の問題を教えてくれないと俺も対処や何やらが出来ないんだが」
「うむ、私の危惧している事は時期なのだ。物語開始は日露戦争後、今から凡そ二十四年後になる、戦時となれば錬金戦団と野良のホムンクルスも集まってくる可能性が非常に高くなるのだよ」
二十四年後、なら私も四十路になりますね。
生きていたらですけど。
「五十代か、流石にキツいか?」
「アンタはいつまで戦うつもりなんだよ」
「死ぬまで」
不破信二は、やっぱり不破です。
もう修羅ではなく羅刹ですね。
戦果を求める破滅の鬼神、あの河川で見た彼の姿は血肉を喰らう羅刹そのものでした。普段は、こんなにのほほんとしているのに不思議です。