クズリの名前はドンになりました。
しとりに名前の由来を聞けば大きなクマを相手に一歩も退かずに戦っていたので、強いからドンだそうです。この子のネーミングセンスはすごいですね。
いえ、それよりもクマと遭遇する場所にしとりが一人で行っていた事の方が不安で目眩がしてくる。ウチの娘のアグレッシブさは父親譲りなのでしょうか。
……まさか、私譲り?
「ドン、いこー!」
「嬢ちゃん、行こうと言うのは良いがクズリを引き摺ってる。ズルズルって地面に擦れてる、散歩は嫌だって訴えているぞ」
「ん!」
「いや、『ん』ではないよ?」
個魔の方は雪の積もった道の端を歩くしとりを注意してくれながらドンの事を心配してくれる。いつかしとりを「げぇむ」に連れていく妖怪ですが、あの人なら安心して預けることは出来ますね。
「景、また狸が浮いてるぞ」
「個魔の方が運んでるんです」
「……オレ
「多分、私をまだ子供と個魔の方の上が認識しているんです。私だって二児の母になるというのに子供に見られるのは不満です」
まあ、老けて見られるのも嫌ですけど。
「しとりのヤツは動物に好かれる体質なのかね」
「良い
私がそう言うと左之助さんは首を傾げる。前世を覚えている転生者には通じるかも知れないけど。私の周りにいる転生者は知識が変に偏っている。
ドクトル・バタフライは「物語」の概要を知ることは出来るけど。本筋の流れや分岐点、重要なキーワードを知るには「物語」に介入し、その中に加わることで見付けなくてはいけない。
以前の私のように瞬間的に膨大な知識として「物語」の内容を知ることは彼には出来ません。私もこの世界が「るろうに剣心」と知った瞬間、脳が壊れるんじゃないかと思うぐらいに激痛を伴いましたから……。
「ドン、はしれ!」
「しとりは左之助さんにそっくりです」
「アレを見ながら言うなよ、反応に困るだろ」
「強引な人ですもんね?」
にっこりと微笑んでそう言うと左之助さんは悔しそうに顔を逸らした。いつもお説教を受けてばかりでは母親のメンツが潰れちゃいますからね。
しかし、ドンも頑なに散歩を拒否しますね。
気晴らしにもなるので私は好きだけど、やはり動物は余り明るい内に出歩くのは嫌いなのかしら?と考えていた次の瞬間、ドンが駆け出し、誰かのイカの姿焼きを奪い取ってしまった。
「すみま……永倉さん、何してるんですか?」
「いやね。昼の休憩を」
わざと昼行灯を気取るのは良いですけど。
しっかりと気付いて貰えてます?
「ドン、めっ!」
「ハッハッハッ、嬢ちゃんの犬…狸か?」
「イタチです」
みんな、何故タヌキだと思うのだろう。