のんびりと物書きに耽る時間は楽しく、自分の大好きだった絵物語を広めることは更に好きだ。いつか私の生きていた時代まで残っているのかは分からないけど。一つずつ、大好きなものを残していきたい。
少しの水を溜めた硯に削って出来た墨を使い、左之助さんと戦っていたとき、緋村剣心の使った飛天御剣流の技を絵に描く。
神谷さんの神谷活心流の様な正道の剣術と違い、緋村剣心の飛天御剣流は物凄い速さを感じる躍動的な剣術であるが故に描くのも中々に面白い。
「飛天御剣流の絵か?」
「あら、明神君?えぇ、左之助さんと戦っていたときに使っていた技を絵にしてみたんですけど。私には太刀筋も動きも全く見えなかったから……少し動きが変になってるかも知れないわね」
「コイツが龍槌閃で、此方が龍巣閃だぜ」
明神君は事も無げに私の描いた飛天御剣流の技名をフンと胸を張って自信満々に言った。あの激しい戦いを見えていた明神君の凄さに驚き、どこか期待を込めながら「これだけで分かるの?」と私は明神君に問う。
「大体は分かるっての!伊達にいつも一緒に居ねえよ。それにいつかオレは剣心を越えるんだ、絵に描かれた剣心の技くらい簡単に見分けてやる」
「すごいわねえ、明神君」
「こんくらい剣士なら当然だぜ!」
そう言う彼の言葉にパチパチと拍手と賛辞を送り、飛天御剣流の技絵を書き記した和紙を乾かして明神君に手渡す。いつか君が緋村剣心と飛天御剣流を越えるときのために、この絵を参考にしてほしいな。
そんなことを考えながら神谷活心流の道場の出入り口に腰掛け、草履を履こうとした瞬間、ぼんやりと目の前の足元に日陰が出来る。
今日も誰か来たのだろうかと草履に伸びていた手を止め、ゆっくりと日陰になっている人を見上げたそのとき、ヒュッ…!と乾いて冷たくなった息を飲んだ。
「武田観柳と御頭がお待ちだ。それに、ここで騒動を起こすのはお前も不本意の筈だろう。暫し大人しくしていれば誰かが傷つくこともない」
そう囁くように告げる般若の言う通り。道場の中には稽古に励む明神君と神谷さんがいて、母屋のほうには洗濯物を洗っている緋村剣心がいる。
「手荒な真似をするつもりはない。ただお前は黙って我らに着いてくるだけで良いのだ」
静かに私の肩に手を置き、我が儘な子供を諭すように話す般若の事を震える身体で立ち上がって、そのまま見上げた瞬間、目を見開き、全身から怒りを発露させる左之助さんが正門に立っていた。
「オレの女に気安く触ってんじゃねェ…!」
「只の破落戸が喚くな」
左之助さんは石畳を蹴って一足で般若の間合いに踏み込み、力強く握り固めた右拳を振りかぶって岩石を砕き壊す破壊力を持つ拳打を振り抜く。
「うぉらっ!!」
「所詮、街の破落戸程度か」
───けれど。喧嘩殺法の力任せで常に全力の大振りな打撃は容易に受け流され、姿勢を崩され、左之助さんの身体に般若の左右のラッシュがめり込み、吹き飛ばしてしまった。
「左之助さんっ!!」
正門脇の壁に激突し、崩れ落ちる左之助さんに駆け寄ろうとする。しかし、私は般若に手を捕まれ、彼に駆け寄ることも出来ず、首筋に素早く身体を突き抜けるような衝撃を受け、身体の力と意識が薄れていく。
「既に糸色殿は我らの物だ。今夜、高荷恵も回収しに来る。その時は大人しく黙っていろ」
左之、すけ……さ……