権宮剛豪の走る背中を追って函館山の山中を登っていく途中、獣の臭いが混じり始める道に逸れていき、剣心と瀬田のヤツも空気の変化に気付いている。
「止まれ」
「着いたのか?」
「まだ拠点はこの先だが、アレを見ろ」
藪の影に隠れながら目の前を指差す先を見る。
人の死体だ。
───だが、あれは斬った撃ったの傷じゃない、あれは爪牙で切り裂かれて出来た傷だ。ヒグマ以上にデカくて強いやつじゃねえと、あそこまで惨たらしく人を噛み砕けるヤツはいない。
「左之、あそこに人がいるでござる」
「チッ。女じゃねえか!」
「僕が行きます、速いので」
瀬田のヤツが動き出そうとした瞬間、地面に座り込んでいた女の顔が此方を向いた。景や嬢ちゃんのように優しさの籠った眼差しじゃない相手を獲物としか考えていない化け物の目だ。
「あら、貴方達はだぁれ?」
ゆらりと立ち上がった背丈の高い女の顔に見覚えがある。オレや景の考えていた様に錬金戦団の仕業じゃなかった、コイツはもっと別の生き物だ。
オレ達に向かって歩き出した女の異様な気配を感じ取り、オレ達は獣道を駆け抜けるように転がり、すぐに立ち上がって逃げる。
「……走れ、走れェッ!!」
「置いていかないでちょうだい」
「蛮竜でぶっ飛ばす!テメェ等は麓まで走れ!」
「左之ッ!」
「景としとりと赤ん坊がいるんだ。死ぬかよ」
剣心の言葉を遮って黒い女を睨み付ける。
オレ以上にデカい女に会うのは五稜郭で戦ったモグラ女が初めてだったが、コイツは正真正銘の白面に繋がる本物の化け物だ。
「うぉらっ!!」
「野蛮な人ね」
オレの振るう蛮竜を片手で受け止めた女の力に押し返されそうになった瞬間、蛮竜が青白い雷撃を撒き散らして化け物の腕を消し飛ばす。
「獣の槍ィッ…!!」
「生憎とコイツは獣の槍じゃねえ、蛮竜だ!!」
「ぐげっ」
「蛮竜、今だッ!!」
蛮竜を横薙ぎに振るって熱風を撃って女の身体を横一文字に切り裂く。だが、肉を斬ったときに感じる感覚が無く、石突の月牙を女の首に突き立て、オレも巻き込んだ青白い雷撃を直接叩き込んだ。
黒焦げになったがまだ完全に倒していない。
コイツを倒すためには蛮竜の雷撃を全力で叩き込むしかねえが、下手に雷撃を使いまくればオレの方が先に参っちまうかもしれねえ。
次にやるときまでに鍛えておかねえとな。