奪われた姉 序
借家の居間に連れて帰ってきた雪代縁を警戒する三人に「もう今日は休んで良いぞ。足りねえなら、オレの財布も持っていけ」と左之助さんが財布を井上君に投げ渡した瞬間、キラキラとご飯を求めて久保田さんと長谷川君が井上君を拐うように連れていった。
「僕に何の用だ、糸色景。今更お前達に構って姉さんを探す時間を無駄にするつもりはないし、もうお前達と関わるつもりもない」
「その事で貴方を連れてきたんです。今、此方でも雪代巴さんの遺体を盗んだ人か妖怪か分かりませんが、捜索を続けて貰えるように斎藤さん達に頼んでます」
「斎藤一、警官隊が協力か」
「景の人望のおかげだな」
どちらかと言えば監視目的の警官を配置するために好都合な頼み事をしただけなんですけど。斎藤一も私の意図を察して、わざと見える位置に藤田警部補としての部下を中庭に残している訳です。
「余り無理強いする訳じゃないけど。少しだけ、この家で傷を癒やしてからお姉さんの捜索を始めるのも良いんじゃないですか?」
「……僕は一度お前を殺そうとした男だぞ」
「それがどうしたんです。確かに私は貴方の仲間に拐われ、恐ろしい目に遭いました。───だからこそ私は貴方と手を取るんです。貴方が大切に想う、雪代巴のために貴方も少しだけ羽を休める事を覚えなさい」
「…………分かった」
そう言うと雪代縁は居間の机に向かって額を叩きつけるように倒れ込み、歪な寝息をこぼす音が居間に響き始め、なんだか苦笑いしてしまう。
前作のラスボスも生きている人で、こうして睡魔に耐え続けることは出来ない。しかし、自分でも驚くぐらいに強い言葉を言ってしまいました。
「怒ってるのか?」
「えっ、怒ってませんよ!?」
慌てて、パタパタと両手を振って左之助さんの問いかけを否定する。ちょっとだけ自暴自棄になっていた頃の自分に重なって見えただけで、本当は叱りつけるつもりもありませんでしたから。
しとりも怖かったかな?と膝の上に座っている彼女を見るとキラキラした眼差しを私に向けている。……これは、余り叱りつけない私が叱ったからワクワクしているということでしょうか?
「母ちゃん、おこれる!」
「あ、あはは、怒ってないですよぉ?」
「ん!ん!しとりもおこって!」
「そんな、とても良い子なしとりを叱るなんて」
「むうぅぅ…!」
プクーッと可愛らしく頬っぺたを膨らませる彼女のモチモチした頬っぺたを触りながら「貴女を叱るときは本当に悪いことをしたときだけです」と伝えて、ゆっくりと額と額を合わせる。
「それ、オレにもやってくれ」
「しとり、お父さんに怒って貰えますよ」
「ん!おこって!」
「……やべえな。叱るところが、ない!?」
ほら、そうでしょうとも!