某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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奪われた姉 急

函館山の中腹、左之助さんや緋村剣心達が剣客兵器と戦っていた場所にこの世の者とは思えない白雪のごとき肌をした美女が現れるという噂が函館に広まり始め、おそらく雪代巴の事だろうと私は考える。

 

妖怪は人の形を得るために人の中に潜み、意を沈めて操る事で身体の所有権を奪う。では、複数の細胞と外見を真似て作られ、ホムンクルスと化した雪代巴。魂の入っていない身体は彼らにとって好都合な依り代だ。

 

「(緋村さんの前妻、雪代縁の姉、その姿を真似たホムンクルスの彼女の存在を二人が認知してしまった分、彼女の身体には十分な負の想いが向けられている。陰の好む、まるで予め決めていたかのように孤島に彼女はいた)」

 

「景、また考え事か?」

 

「……少しだけ腑に落ちない点が多くて」

 

私を背負って函館山の山道を歩く左之助さんの呼び掛けで思考の渦から引き戻され、左之助さんに腑に落ちない違和感を伝える最中、大陸拵えの鞘を握り締める雪代縁にも視線を向けていたその時、白雪の様な女性が荒れた草木の上に立っていた。

 

「……やっぱり、姉さんだ…漸く目覚めたんだね…」

 

「……あら、えにし…久しぶり、ね…」

 

ふらりと彼女に近付こうとする雪代縁の服を掴み損ね、左之助さんも彼に手を伸ばした瞬間、真っ白な剣山の尻尾が地面を突き破って吹き上げる。

 

「姉さん、姉さん、姉さん…」

 

「おいで、抱き締めてあげるわ」

 

「馬鹿野郎ッ、そっちに行くんじゃねえ!」

 

「雪代さん、その人はお姉さんじゃありません!」

 

剣山の尻尾を避けて呼び掛けるも雪代縁には聞こえていないのか。あともう少しで雪代巴の手が触れるところで金色の蝶と龍の首が雪代巴を弾き飛ばした。

 

緩やかに金色の羽を揺らして降り立つドクトル・バタフライと全身にゾクゾクする感覚を与える音質の声で話す奈落の登場に私は安堵し、尻餅をついている雪代縁を左之助さんと一緒に抱き寄せる。

 

「やれやれ、順序を考えたまえよ」

 

「吾に言うとらんで、あの狐に言わんか。お前が孤島で見逃したからこうなっとるんじゃでな」

 

「お説教はNO THANK YOUだよ!」

 

「また、食べ損ねた…」

 

パキリと雪代巴の頬が裂け、上顎と下顎の奥まで錐のような歯がびっしりと生えた口を開き、真っ白な尾を揺らして恐ろしい声で呟く。

 

「ヒッ、あ゛っ、やだッッ…!?」

 

「落ち着け、お前は絶対に守る」

 

蛮竜を地面に突き立てて私を抱き締める左之助さんの声で何とか冷静さは取り戻せたものの、雪代巴の私を見つめる視線が他の人と違う。

 

「……か…で……姉さんの…顔、で…嗤うなッ!!」

 

刹那、怒りを纏った雪代縁が駆け出し、鞘に納めたままの倭刀を彼女の頭に振り落として鞘が粉砕する程に強烈な一撃を見舞った。

 

 

 

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