「ふむ、視力が以前より下がっているね」
「すでに靄なのにですか?」
「眼鏡は新調しておこう。────型月世界と統一していれば魔眼殺しの眼鏡を作ることは出来るが、統一した場合のデメリットを思うに描くことは禁止しよう」
「流石にアレを描くつもりはないですよ。描こうとしたら世界各地の英雄や神話の内容を受け止めることになりますし、流石にあの量はキャパシティを越えます」
「まあ、そうだろうね。私もあの世界の全てを知覚して管理するのは流石に骨を折る」
そう言って苦笑するドクトル・バタフライ。
確かに、あの規模の世界を見守り続けるのは大変そうではあるけど。私からするとドクトル・バタフライなら絶対にやり遂げるという謎の気持ちにはなる。
「さて、今日の診察は終わりだ。君をホムンクルスに作り替えたところで人間程度の筋力やスタミナを得る程度で、余り好条件とは言えないからね」
「まるで私の身体が人間以下のように言いますね。これでも二児の母親になるんですよ?それくらいの体力……体力は、えっと、多分、ある、かも知れないじゃないですか、もしかしたら」
「何度も言うがね。糸色君、君はスーパーコンピューターでようやく利用できるデータベースを搭載した家庭用低スペックPCみたいなものだ。まあ、君自身は好感を持てる女性であり、私の掛け替えのない友人でもある」
「それはありがとうございます」
ゆっくりとフレームの少し歪んだ眼鏡を掛けるとボヤけていた視界はクリアになり、ドクトル・バタフライの情報も過多に押し寄せることはなかった。
ただ、眼鏡のピントがズレている。
そう目が疲れそうなので眼鏡を外して袖の中に仕舞っていた木箱の眼鏡ケースに納めて、ドクトル・バタフライに両目を隠すようにガーゼを重ね、その上に包帯を重ねるように巻いてもらう。
「オッサン、景はもう大丈夫なのか?」
「現状は問題ないだろう。しかし、今回の恐怖心の異常な高まりで彼女の特異な知識は暴走し、先日のように未来を予測して、推測し、考察し、物事の全てを既知状態したある種の神降ろしに近い事を引き起こす」
なんだか大それた風に言ってますけど。
シンプルに言えばデジャヴ状態になるということだ。私が知らないのに知っているというのは、戸惑いや驚きよりも恐怖心を抱いてしまう。
「左之助さん、左之助さん」
「どうした?」
「ん!」
私の手を握る彼の服をクイクイと引き、見えないので両手を広げて抱っこをお願いします。本当はしとりに会いたいですけど、私のこんな姿は見せられませんから井上君達に御守りをお願いしている。