裏正。
人を斬る快楽事に執着し、外道に堕ちた侍の腑破十臓の振るった、彼自身の妻を素材として生まれたこの世に存在する、どんな妖怪の武器よりも恐ろしく、その身の丈に迫る妖刀は幾度となくシンケンレッド───志葉丈瑠と死闘を繰り広げた。
その妖刀を造ろうとするなんて蛮竜の転生者は馬鹿なのでしょうか?いえ、人の趣味嗜好を貶すつもりは無いですが、やっぱり好きなものを造って貰っていますね?
「……良い刀だな…」
「(妖刀です。良い刀じゃないです)」
鋸刃状の赤い峰の妖しさを見つめる雪代縁。左之助さんの腕を掴んでしとりと一緒に彼の背中に隠れ、静かに姿お兄様と雪代縁を見つめていた。
───次の瞬間、雪代縁にお兄様が斬りかかった。
「どういうつもりだッ!?」
「どうも何も鈍った身体を鍛え直す相手をしてあげようという僕なりの優しさだ。それに君には妹を傷つけられたら恨みもあるからね!」
大小一対の二刀流で構えた姿お兄様の隙の生じぬ連携・連鎖の止まらない怒濤の剣舞に、雪代縁は不馴れな日本の拵えに動きが追い付いていない。
しかし、雪代縁は九つ同時の斬撃───九頭龍閃の初太刀を裏正で受け止め、通常の刃筋で九頭龍閃を切り崩し、大陸の体術と組み合わせた剛刀によって姿お兄様の身体を刻むように、独楽のように刀を身体より高く構えて、その身体を瞬時に逆巻かせ、渦を成す。
確か、あの技は倭刀術「戰嵐刀勢」だ。
「ハハハッ!勘は鈍ってないね!」
「いきなり斬りかかってきたんだ。そっちが斬り殺されても構わないんだろうなァ!!」
「生憎、新婚なんでね。死ぬ気はない!」
姿お兄様のその言葉に「あらやだ、もう♪︎」と鎌足お義姉様は嬉しそうに頬を赤らめて、くねくねと身体を揺らして嬉しそうにしている。
「姿のヤツ、秘刃は使わねえのか」
「ひじん?」
ぽつり、と左之助さんの呟いた言葉に「黒歴史ノート」に書いていた飛天御剣流の技絵を思い出す。まさか、あの絵を元に本当に体得してしまったのですか?と思わず、私は姿お兄様を見てしまう。
「ちょっと本気出すよ、雪代縁。鎌足、持ってて」
「あら、一刀流でいいの?」
「まあ、そこそこね」
そう言うと姿お兄様は脇差しを鞘に納め、ぽいっと鎌足お義姉様に投げ渡した。
左之助さんのときはどうだったのかな?と思いつつ、彼を見るのこめかみに青筋を立てて「オレの時は二刀流だったが、まだ本気じゃねえってのか?」と文句を呟いているのが聴こえてきた。
多分、武器と体躯の差を考えているのでは?