姿お兄様の振るう剣を辛うじて受け止める雪代縁の動きは次第に鈍くなり、致命傷は負っていないものの、幾つもの刀傷を身体に刻まれ、荒々しく肩を上下に震わせて呼吸を繰り返している。
「……はあ、お姉さんを助けたいという君の想いは嘘なのかい?さっきから受け手に回るばかりで攻撃も稚拙、重傷人でも鍛練は積めていたのに、本当はお姉さんを助けたくないんだろう?」
「うるさい、黙れッ!!僕は、僕が姉さんの身体を、心を、魂を、あの化け物から助け出し、もう二度と弄ばれないように彼女を安らかに葬る!そのためなら僕はなんだってする!」
「うん、合格だ。道を踏み外して尚も姉のために動ける、それならあの妖怪に身体を奪われる心配はないし。君のお姉さんを助ける事も出来る」
そう言って裏正を振りかぶって鍔迫り合いを交わす姿お兄様と雪代縁の二人の動きが止まり、姿お兄様は素早く大刀の血を振り払って、ゆっくりと鞘に納め、私達のところに向かって歩いてくる。
雪代縁も突然の合格発言に戸惑い、姿お兄様の後ろ姿を見つめている。どういうことなのだろうか?と左之助さんを見上げると溜め息を吐いていた。
「男子たる者、己の志は曲げぬようにね」
「えっと左之助さん、これは?」
「雪代が本心から傷付けた姉を助けたいと思えるように、わざと悪役に扮して奮い立たせてやったんだよ。ドクトルと同じ事しやがって…」
「おなじこと、ですか?」
ドクトル・バタフライと左之助さんも似たような事があったんだろうか。私の知らないところで、二人も交流しているのはお友達が増えて良いことですけど。
「ただし、景を傷付けた事は謝るんだ」
「…………すまなかった……」
「はい。許します、もう悪い事しちゃダメですよ?」
「景が許すならオレも許してやる。だが、二度と人の女房を連れ去ったりするなよ?次やったらオレがお前をブッ殺しに行くからな」
しとりの教育に悪いから怒るべきなのに、左之助さんが私のために怒ってくれているということが嬉しくてしとりの頬っぺたをムニムニとしてしまいます。
「景ちゃんは愛されてるわねぇ」
「いや、僕の一番は鎌足だよ?」
「ん゛っ……コホン、そういうところよ?」
確かに、姿お兄様も左之助さんも無自覚に女の子をドキドキさせちゃう言葉を言っている気がします。五年ぶりに東京に帰ってきた筈なのに、まだ女学生や奥様方に人気で、とても不満です。
まあ、そうなる原因を作ったのは私ですけど。
主に春画とか錦絵とか原因でしょうけど。