流石に妖刀を勧めるなんていう趣味はないので、そのまま斎藤一をスルーしようとしたのに、ぐるりと彼の鋭い視線が私の方に向いてきた。
ドクトル・バタフライに助けを求めるように視線を向けるが、彼は早々に退場していたらしく私は余り妖刀の近くに、特に蛮竜以外の側に寄りたくないのだ。
あの大鉾の鼓動が私にも聞こえるなんて、それだけ危険なものが混ざっているということであり、下手に関わりたくないのです。
「糸色、お前の意見も聞きたい。来い」
「……包丁以外触ったことないです」
「触っていたら逮捕している」
「そ、そうですか」
全然、冗談に聞こえない…。
そう思っていても口に出さず、ゆっくりと斎藤一の側によって机の上に並べられた日本刀を見る。分類は打刀。刃渡りはやや長め、反りは浅く、突きに適しているものは幾つか在るにはある。
「この刀はどうだ?」
「目利きは斎藤さんの方が良いのに、私に聞くのはやめてください。……姿お兄様が持ってきたものにしては変な邪気や妖気はありませんね」
他の刀にはうっすらと靄が見える。
私、霊視の能力なんて無かったんですけど。これも神酒の副次効果と考えると何だか有り難く思える。いえ、怖いものが見えるのは有り難くないですね。
「……ダメだな。重心が悪い」
「そうなのですか?」
「嗚呼、反りの浅さと刃渡りの長さは申し分ないが重心にぶれがある。牙突を渾身の一撃として放つには条件を満たしていない」
ふと一際存在感を放つ刀が在った。
抜け、抜け、抜け、そう私に命令する様に怪しげに存在感を放つ刀を私は斎藤一に押しつけた。私は自分の包丁があるので、そういう人斬り承認欲求とかありませんから、そもそも刃物は包丁だけで結構です。
「……反り、刃渡り、共に申し分ないがさっきから『斬れ』『殺せ』と五月蝿い刀だな。へし折って川に捨てるぞ、黙っていろ。阿呆が」
斎藤一がそう言うと刀の邪気は薄れた。
まあ、存在その物を否定する言い方とへし折って川に捨てるという刀からすれば、かなり恐ろしい事を言いましたからね。
「竜骨精?蛮竜の紛い物か何かか?」
りゅうこつせい?
……ああ、竜骨精ですね。成る程、だからアレだけ他の刀より異質な存在感を放っていたわけで、いや、しれっと話していますけど。
それ国家転覆物の特級呪物じゃ……。
私の不安もそうだけど。
斎藤一の物怖じしない精神の強さは尊敬しますし、見習いたいとは思う。でも、さすがに大妖怪で作られた刀と喧嘩するのは止めて下さい。
シンプルに怖いです。
「竜王……刀が王を名乗るか、ふざけているな」
ひぃん、やっぱり斎藤一も怖いよぉ…!
【概要用語解説】
本作に登場する単語や転生者に関する用語を少しずつ解説してきます。
【竜王】
蛮竜の転生者の遺品。
「彼」本人は幾度か振るったとされる妖刀。かつては犬の大将と互角以上に渡り合い、封印することしか出来なかった大妖怪「竜骨精」の牙を材料とし、その刀身には竜骨精の意志が宿っている。
妖刀界では最高位の一振りである。