備えあれば憂いなし 序
左之助さんの闇を垣間見た翌日も家にやって来たススハムの後ろを、ぞろぞろとドクトル・バタフライ達も入ってくるなり、居間の定位置に座り始める。
私達のお家なんですけどね。
「しとり、金平糖を貰ったから食うか?」
「たべる!」
「おお、今日も元気だな」
不破信二の差し出す小袋を受け取ったしとりはキラキラした金平糖を一つずつ手に取り、カラコロと口の中でゆっくりと舐めて味わっている。
彼の言う通り、私に似ず健康的な身体に生まれてくれて本当に良かったです。まあ、何かと妖怪に好かれやすい特異体質かもしれないという疑惑はあるけど。
それもしとりの大切な個性ですからね。
「さて、白面の者の一尾を退けることに成功したものの。やはりというべきか、あの大妖怪は糸色君の肉体を狙っていた」
「まあ、吾が言うのもなんじゃが。糸色はぽっかりと空いた穴を埋めてくれる、そういう匂いをしているのは事実じゃでな」
「どういう臭いよ。……甘い匂いしかしないけど、これが妖怪を惹き付けているわけ?」
スンスンと私の髪や胸元に顔を押し付けて匂いを嗅ぐススハムに驚きつつ、彼女達の言う匂いを確かめるために袖を摘まんで鼻に袖を近づける。
……よく分からない。
「俺は嗅いだら、いや、なんでもない」
「吾が言うのもなんだがやめておけ?」
今日は神無の姿で話す奈落の言葉に胸を押さえる不破信二を無視して話を進めたドクトル・バタフライは「このま話を続けるが、糸色君の肉体を狙う白面の者の思考を読み取ることは難しい」と言葉を続ける。
「白面の者の願いって生まれ変わりだろ?」
「うむ、そういう説もある」
「相楽の腹の子に乗り移って生まれようとしているとか考えられねえか。母親の慈愛を受けて生まれたいって感じかも知らねえし」
不破信二の言葉に居間が静まり返る。
「しとりがまもる!」
「……フフ、ありがとう。しとり」
彼女の頭を優しく撫でながら膝枕してあげる。
しかし、彼の言った仮説はあり得るかと言えばあり得るのかも知れない。あの小瓶の中にいたとき、どこか希望を見つけたように笑っていた気がする。
左之助さんが知ったら大変な事になりそうなので伝えるのは少しだけ後にしたほうがいいですね。
白面の者も私を狙うのは良いですが、お腹の子を狙うのは止めてほしい。この子が生まれるのをしとりも楽しみに待っているんです。
「白面の者関連は糸色君の身辺警護を心掛けるとして、未来の『ゴールデンカムイ』に関する新情報を手に入れた。やはり土方歳三は生きており、現在も監獄に囚われているようだ」
「陸奥が戦ったヤツか。俺は御陵衛士や維新志士と戦ったからな」
「……アンタ、さらっと怖いこと言うわね」
まあ、不破信二は修羅ですからね。