神谷活心流は活人に非ず、人斬り流儀なり。
人斬り抜刀斎が東京に出没するという噂はその様な不確定の曖昧な物に変わり始め、そんな噂を信じてしまった門下生は挙って神谷活心流を去り、現在は物語の最初期たるヒロイン・神谷薫と緋村剣心の出会う時期が刻一刻と差し迫っている。
何故、そんなことを語るのかと言えば───。
私が神谷活心流剣術道場に来ているからだ。いや、来ているというより拉致や誘拐に近しい形で連れてこられたと例える方が正しい。
「お願い、糸色さん!あの人相書きの人斬り抜刀斎をもっと正確に書いてほしいの!!」
「そうは言われてもね。神谷さん、私は幕末の動乱に生きた人斬り抜刀斎なんて本人どころか名を騙る偽者も見たことがないし」
そう神谷さんの人相書きの修正(もっと正確に言えば偽者の人相書きを書き直す仕事)の頼みを断りつつ、私は差し出された湯呑みに淹れられた緑茶を飲む。
そもそも人相書きの男は偽者である。
私が
「(……さて、どうしたものか)」
ズズッと熱いお茶を飲み、考える。
ふと原作の知識を利用した方法を思い付く。
「一つ良いかしら、神谷さん」
「なにっ!?」
「人斬り抜刀斎の活動していた時期は幕末。神谷活心流の成り立ちは明治初期、もしくは少し前ぐらいの時期になるわよね」
「えぇ、そうだけど」
神谷活心流の開祖・神谷越路郎は西南戦争に従軍していたという記憶は残っている。おそらく緋村剣心と知り合っていた可能性も低くは無いけれど。
「当時、人斬り抜刀斎の使った流派は未だ不明。しかし、今は神谷活心流を名乗っている。────けれど。人斬り抜刀斎の噂には『天に高く飛び、目視不可能の速さで駆け、気が付けば斬り倒される』という物も多く残っている」
一旦、そこで言葉を区切り、神谷さんを見る。
「神谷活心流は正道の剣。空を跳ねたり、況してや闇夜に乗じて、名乗らずに後ろから斬るなんて事は絶対にしない。なにより父の剣は、剣で活きる道を示す不殺の剣術だったわ」
幕末時代は闇討ちは当たり前に横行し、闇夜に乗じて相手を斬る剣士は少なからず実在している。が、彼女の言う通り、神谷越路郎は不殺を貫いた人間だ。
その事実を私は知識として知っているため、少しばかり悩ましく感じる。神谷さんに「貴女のお父さんは北海道にいるのよ」と、そう言いたくなってしまう。
「そこですよ。貴女の父・神谷越路郎は神谷活心流は大々的に活人剣を名乗っていた、その流派は今更人斬り抜刀斎が名乗るメリットが……コホン、人斬り抜刀斎に利益や有益となる理由が何処にも無いんです」
「……えっと、つまり?」
「犯人は本物の人斬り抜刀斎に非ず、ということです」
「それじゃあ、振り出しに戻るじゃないの!?」
私の肩を掴んで揺さぶりながら訴えてくる神谷さんに「そうなりますねー」と、この後に起こる原作の流れに沿っている事を信じつつ、彼女の焦りによって飛び出る不安の言葉に応える。
「ただ、犯人は知りませんけど。理由なら分かります」
「ウソ、本当に!?」
「おそらく犯人の狙いは神谷さんか道場です」
「私と道場を狙って、ってどういうこと?」
「気立てが良く見た目の可憐さもある上、かなり腕も立つ剣術小町のいる東京でも中々に立派な道場なんて格好の獲物ですよ」
「そ、そうかしら」
何故、そこで照れるのか。