左之助さんのプロポーズを承諾してから、かれこれ三日ほど経つものの以前と大して変わったところは余りなく、左之助さんの喧嘩屋家業が中入れ屋(現代で言うハローワーク的な仕事)の案内を受けた人のみ依頼を申し込める環境に変化したことぐらいだろう。
結局、左之助さんは喧嘩屋を止めるつもりはない。が、斬馬刀は回転式機関砲の弾幕を受け続けたため、刀身は酷く損傷しており、もはや振るうことは出来ない程に半壊させられた状態だ。
「重くないですか?」
「お前は重い云々以前に軽すぎるぞ」
「嬉しい褒め言葉ですね、フフフ…」
私を背中に乗せて腕立て伏せを繰り返す左之助さんは私を見す見す拐われた挙げ句、四乃森蒼紫との戦いで勝てなかった事を悔やみ、喧嘩屋家業に加えて私の考えたトレーニングメニューを黙々と行っている。
「今、何回目だ」
「二百と十七回目です。左之助さんも怪我をしているんですから、あと十三回ほどやったら腕立て伏せは終わりにしましょうね?」
「あと十三回だな、直ぐに終わらせる」
その宣言通りに左之助さんは素早く腕立て伏せをやり終えた彼の背中を降り、柑橘系の果実と砂糖、塩と水を混ぜた自家製スポーツドリンクを手渡す。
本当はもっと蜜柑よりハチミツやレモン類を使ってビタミン補給や水分補給を行いつつ、健康的かつバランス良く栄養を補える食材を使った料理を振る舞いたいけど。
まだまだ交易で手に入り難いものもあるのだ。
「糸色、神谷道場に行くが来るか?」
「いえ、今日は買い出しに行こうかと。それに連日押し掛けるのは神谷さんにも負担が掛かりますし、左之助さんも一緒に買い出しに行きましょう」
「まあ、そりゃあそうか」
私の言葉に納得した左之助さんは汗を手拭いで拭い取り、玄関先に並べていた
「ん。ほらよ」
「?……あっ、フフフ」
「おう」
ずいっと差し出された左之助さんの手に首を傾げるが直ぐに彼の意図を理解し、そっと彼の手を握り返して立ち上がり、彼の隣に並んでごろつき長屋の戸を開け、一緒に買い出しに向かう。
こうしていると本当に夫婦みたいだなあ。まだ、祝言は挙げてないけれど。左之助さんも祝言を挙げるときは、ごろつき長屋を出るとは言っていたわね。
「今日は何を食べたいですか?」
「あーっ、魚が食いてえな」
「それなら海沿いの市場ですかねぇ」
そんなことを左之助さんと話しながら歩いていると明神君がコソコソと何処かに向かっていくのが見えた。また、なにかあったのかしら?