「楓様、薬草は此方で良いでしょうか?」
「ああ、上出来だよ。一回で覚えるとは随分と物覚えが良い母親だね、あの子も元気ですくすくと育っている訳がよく分かるよ」
「フフ、ありがとうございます」
笊に入れた薬草を見せると楓様は穏やかな笑顔で私の事を褒めてくれた。いつも左之助さんやみんなにありがとうと言われているけど。
お母様に褒めて頂いた様な気持ちになる。全然年齢は違うけど、やはり年上の女性に褒めてもらえるのは少しだけ嬉しいものです。
骨喰いの井戸と御神木のある森の中に入り、楓様から少しだけ離れた場所で薬草を摘んでいると先日の夜に感じた視線に気付き、顔を上げると木々の奥にうっすらと白い女の子が立っているのが見えた。
半妖・奈落の産み出した第一の分身であり、最も長く奈落に仕えて儚くも散った無の妖怪である神無が鏡を抱えて、そこに立っている。
ハッキリと言えば、彼女の事は怖い。
下手に関われば奈落に見つかり、私の事を利用して犬夜叉達を苦しめる可能性だって有り得る。……でも、やっぱり一人の母親として子供がひとりで、こんな森の奥に居る事を見過ごすわけにはいかない。
「こんにちは。こんなところで、どうしたの?」
「……」
ゆっくりと彼女の目の前まで移動し、彼女に目線を会わせるようにしゃがみ込んで問い掛けるも神無は静かに無表情のまま私を見つめる。
すごく怖いけど、やっぱり綺麗な顔───。
「少し触るけど、大丈夫?」
何処と無く桔梗に似ているようにも見えるけど。奈落の性格を考えると似せて産み出した可能性もあるわね。初恋を拗らせた結果、あの妖怪変化だったから。
そう思いながら裸足の彼女の傍に座り、竹筒の水を染み込ませた手拭いを使って汚れた彼女の足を丁寧に拭き、新しい手拭いを裂いて簡易的な草履を作って、彼女の手を引き、楓様のところへと向かって歩く。
「楓様、子供が」
「おや、一人だったのかい?」
「はい。どうやらそうみたいです」
本当は彼女の正体を知っているのに、楓様を巻き込んでしまった罪悪感に胸が苦しくなる。持病の方はお薬のおかげで大丈夫だけど。
「ん!母ちゃ……だれ?!」
「えと、お名前は?」
「…………神無」
「かんなさんです、しとり」
「ん!かんなちゃん、あそぼ!」
挨拶代わりに手を握ったしとりはブンブンと神無の手を振りながら挨拶し、一緒にコマ回しをしようと提案する。が、神無は無表情のまま、しとりに着いていき、私は個魔の方の「母者、アイツは妖怪の神無だろう。何を考えてつれてきたんだ?」と問われる。
「あの子は一人ぼっちで森の中に居たんです。無の妖怪だろうと何だろうと子供が、あんな森の中に一人ぼっちでいるのは一人の母親として見過ごせなかったんです」
「……全く、お人好しの母娘だよアンタら」
そう言うと個魔の方はしとりの影に戻った。
貴女の事も頼りにしていますよ、個魔の方。