「……これ」
「薬草を見つけてくれたんですね。ありがとう」
「…………うん」
傷薬になる薬草の束を持ってきてくれた神無の頭を優しく撫でるとまたじっとりとした視線を感じるけど。もう慣れてしまっ…やはり慣れませんね。
しとりは左之助さんと一緒に刀々斎様と灰刃坊の仕事を見に行っています。
あの子は人一倍珍しいことに興味を示して、ドンと親分を引き連れて、色々な場所を探検している。姿お兄様の様に冒険家になるのも、きっとしとりなら何処だろうと楽しく歩いていけそうです。
「……景、こっち」
「何かあったんですか?」
トタトタと歩き出した神無を追いかけると真っ白な毛皮を被った男の人が御神木の傍に腰掛け、此方を見つめているのが見えた。
ああ、本当に最悪です。
奈落がいる。
転生者の「彼」ではなく本物の半妖・奈落が狒々の毛皮を纏って、緩やかな歩みで私と神無の方へと近付いて来るなり、私の事を静かに見下ろした。
奈落の赤い瞳が私を射貫き、じっとりとした眼差しが私を見つめている。怖い、逃げ出したい、でも神無を置いて逃げるなんて出来ない。
「相楽景、儂のものになれ」
「あ、嫌です」
思わず、スンとなってしまった。
奈落と言えば桔梗に初恋拗らせて陰湿陰険陰鬱になった挙げ句、粘着力の強すぎる横恋慕仕掛けてストーカー化して、自己中心的に相手の心が欲しかったとか宣う最悪のメンヘラみたいなものじゃないですか。
そういうのは私のタイプじゃないです。
もっと、こう放っておいたら死ぬんじゃないかとか甘えるときは甘えて、甘えさせてくれるような、私の全てを捧げても支えてあげたくなる、そういう素敵な男性じゃないと私は無理です。
昔の左之助さんはご飯もお洗濯も下手で、喧嘩に明け暮れていたときもそうです。最初は怖かったのに美味しそうにご飯を食べてくれて、だんだんと彼の人柄に惹かれて、いつも一緒にいるようになっていったんです。
「神無さん、行きましょうか?」
「うん」
チラリと奈落を見るも固まっている。
「(そもそも桔梗に拗らせた横恋慕を向けているのに、人妻の私に手を出そうとする意味が分かりません。恋や愛はそう簡単に乗り換えることは出来ないのに)」
「……景、怒ってる」
「怒っていませんよ?ちょっと、あの変な人の言葉に違和感を感じただけで、まるで私を代用品のように扱おうとしているのも見え透いていましたから」
鬼蜘蛛のときに愛を伝えていれば、ああして人の愛を知ったまま妖怪に変わることもなく最後まで生きていけたというのに、あの人は人間の愛を本当に忘れてしまっているのでしょうね。