人里に入った私達は空き家の一つを借りることができ、しとりも個魔の方の黒衣の上に座っていたとはいえ慣れない場所に居たこともあり、空き家に入るなり私の膝の上に身体を預けて眠ってしまった。
「お休みなさい」
「しとりは眠ったのか。まあ、好都合と言えば好都合なんだが椿婆さんは四魂の欠片を浄化してくれ。オレは景も使える武器を探すからよ」
「自分勝手すぎるわね。全く、私に預けるのが不安なら貴女に取り憑いて……いや、この子に取り憑いている妖怪に私を狙わせておきなさい」
「……二人ともお願いします」
土で汚れた足袋を脱ぎ、空き家の居間と寝床を一緒にした囲炉裏の傍に腰掛けて火を焚こうとする戦骨にマッチ箱を差し出すと「見掛けによらずの喫煙者か?」と問われるものの「それは知り合いの忘れ物です」と伝える。
「じゃあ、借りパクしとくわ」
「えっ、まあ、許して貰え……やっぱり相手はお巡りさんなので返して貰えると嬉しいです」
「警官の持ち物か余計に欲しくなるな。貰っとく」
そう言うとマッチ棒の一つを箱の側面に擦り付け、枯れ木の中に投げ込んだ戦骨はパタパタと手を動かして酸素を送り込み、火を強めて木々に引火させる。
流石は戦国時代に生まれ変わった人ですね、ものすごく火起こしには手慣れている。
「景は刀とか振れるか?」
「振れません」
「じゃあ、薙刀は使えるか?」
「使えません」
「……何が出来るんだよ、お前」
「ひぃんっ」
明らかに呆れた表情で私を見据える戦骨の眼差しに半泣きになりながら絵を描けることと家事全般は出来ることを伝えると「……戦国時代に生まれなくて良かったな」と心底同情されてしまった。
うぅ、これでも妻で母親なのに。
「向き不向きはあるから仕方無いが、しとりを守りたいなら少しは鍛えたらどうだ?」
「……鍛えられるなら私だって鍛えますよ、貴方みたいに強く生まれたなら左之助さんの役にだって、こんなに世界に人に怯えなくても良いんでしょうけどね。貴方に分かりますか?いつ死ぬかも分からないのに、世界を壊せる大妖怪に狙われ、怪しい組織に狙われ、心臓も肺も……すみません、言い過ぎました」
私は何を言っているんでしょうね。
戦国時代に飛ばされた私としとりを助けてくれた人に対して、まるで八つ当たりをするように文句を言って、母親として、ううん、人として最低の行為です。
「いや、オレも悪かった。お前の事情も知らずに自分と同じように考えていた。本当にすまなかった」
「……私もすみませんでした……」
そう言って私達は頭を下げて謝る。
この世界には数少ないけれど、同じ生まれ変わった経験を持つ相手がいる。その人と出会えるのは難しいのだから、こうして自分の経験したことを当たり前のように出来ると思ってしまうのだ。