夕食を済ませて眠る前にしとりの身体を温めた水を桶に移し、人肌より少しだけ温かい程度に保った手拭いで拭いてあげる。お風呂に入らせてあげたいけど、ここには大釜もありませんからね。
やはり戦国時代は不便です。妖怪も真夜中に動き始め、蛮竜を担いだ戦骨は生き生きと家を出ていき、高笑いする声と悲鳴や罵詈雑言の嵐が聞こえてくる。
しとりには聞かせられませんね。
「私はもう行くとしよう。椿、奈落の邪気を追って他の妖怪が此処を襲うだろうが、お前の霊力と結界ならば問題ないな」
「フン。誰に物を言っている」
ガラリと戸を開けて出ていった桔梗を見送りたい気持ちもあるけど。この家を取り巻くように聴こえる妖怪の雄叫びと悲鳴が凄すぎて家から出たくない。
「母ちゃん、うるさいね」
「そ、そうねえ…」
結界って防音に出来たりしないのだろうかと思いながらも銅鏡を使って結界を張り続けている椿の「小娘共はさっさと眠りなさい。奈落に恨みを持っている妖怪は数えきれないほどいるのよ」と言ってくる。
でも、それは知っています。
「ん!母ちゃんもいっしょー」
「母者、私は戦骨を手伝ってくるよ」
「はい、お願いします」
個魔の方も家の中を出ると妖怪の声は苛烈さを増し、しとりは五月蝿そうに眉間に皺を寄せているけど。私の着ていた着物に包まれているおかげか、だんだんと眉間の皺も無くなり穏やかな寝息を立て始める。
「お休みなさい、しとり」
ゆっくりと彼女の前髪を分けて頭を撫でていると視線を感じ、真横を見上げるように連子窓の窓枠越しに此方に顔を上げると奈落の顔が在った。
「漸く見付けたぞ、儂の…!」
「つ、椿さん、奈落がっ!?」
「チッ。私の結界を傷付きながら抜けるなんてどういう神経しているのかしらね!?戦骨、馬鹿やってないで倒しなさい!」
「おう!椿婆さんの張った二重結界の中に入るのは妖怪のお前じゃ絶対に無理だぜ、オギャバブランド希望の奈落さんよ!」
窓枠の外を蛮竜が駆け抜け、奈落の「退け!貴様に用はない、アレは儂の母になってくれるやも知れぬ女だ!」と言う言葉にドン引きしながらしとりを抱き締める。
怖い、怖い……。
奈落に捕まるなんて絶対に嫌です。私は左之助さんやしとり達と仲良く安心して暮らせる場所で、お婆ちゃんになるまで生きたいんです!!
「左之助さんッ、助けて下さい…!」
「嗚呼、オレに任せろ」
「……本当に貴女ってどういう人間なの?」
囲炉裏を飛び越えるように「悪一文字」を背負った服を身に付けた人が、左之助さんが時代樹の作り出す時空を越える穴を突き抜けて現れた。
「左之助さん、あのっ、待っていました!」
「感動の再会と生きたいところだが、お前は先に帰ってろ。奈落の野郎はオレがブッ殺す!」
あっ、これ物凄く怒ってるヤツですね。